Novel〜孕〜 15 ★ クエナの懇願に、獣王は「お前が隊長だったか」と呟いた。 尚も、クエナは必死に、先ほどまでは彼の首を絞めようとしていた手で、獣王の服を握り締めながら頼む。 「お願いです・・・まだこの者たちは新人なのです・・・。 今回が初めての戦いで、 誰も・・・、誰も敵を殺せるような度胸は持っていません お願いです、どうか・・・」 ガクガクと死の恐怖に震える体からは想像できないほど、クエナの目は生きていた。 てっきり命乞いをすると思っていた人間が、まさか他の者の心配をする余裕があるとは想像しておらず、獣王はしばらく黙ってその人間の目を見つめる。 そして、クエナを見る目が、すっと細められた。それは嘲笑のようにも、愛おしいものをみているようでもあったが、どちらかなのかは、誰にもわからなかった。 「いいだろう。他の人間たちは無事に祖国に帰してやる」 その言葉に、ほっとクエナが息を吐き、笑みを浮かべる。自分の命と引き換えに、こんなにたくさんの、これから国を支える若い命を救うことができたと思うと、こんな幸せな死に方はそんなにないだろうとも感じた。 「ただし、」 しかし獣王の言葉で、閉じようとしていた目をもう一度開けるはめになる。 クエナの、いよいよ焦点が合わなくなってきた視界に入ってきたのは、 笑う、王者の顔だった。 「お前の体と、その魂は、 俺にすべて捧げると誓え。 そうしたら、他の者たちは助けてやろう」 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |