[携帯モード] [URL送信]

Novel〜孕〜





「ん…」

腕が疲れた。まどろみの中で惣之助が一番に思ったことはそれだった。
どういうわけか、いつのまにかバンザイの格好をしている。ずっと腕をあげていたら、それは疲れるだろう。

うとうととしながら、腕を下ろそうと動かすが下ろすことができない。目を開けて見なければと思うのに、まだ眠くて惣之助はただむずがるように「うぅん」と唸った。

誰かが、近くにいる気がする。
父か母か、それとも時助?誰だろう?そう惣之助が思った時だった。

「おい。いい加減に起きろ!」

「!!」

突然至近距離で怒鳴られて、ビクっと体を跳ねさせながら惣之助はようやく目を開けた。

「え?なっ…なに?

っぎゃぁあッ!?バケモノー!!」

視界いっぱいに広がる、自分を覗きこむ大男と目が合って、覚醒した少年は叫ぶ。
大男は惣之助の三倍はあろうかという身長を屈めて、それはそれは恐ろしい顔をしていた。

角のようなものも生えているし、歯も鋭い。まるで鬼の様だ。

「ひぃっ…!助けっ」

もがいて、ようやく惣之助は、自分の腕がどうして疲れていたのかわかる。
両手首を縛られて木に吊るされていたのだ。

自分の手を見上げて、ますます蒼白になる惣之助。すると大男の後ろから別の声が聞こえた。

「そいつが新しいお役目か?小さいな」

「あぁ、もう少し待とうかと思っていたが、自分の事ばかりで、まるで他人を大事にしない。

一晩、怪我人を山に置き去りにするような大馬鹿者だ」

振り向いた大男の肩のあたりから、後ろにいた者が見えて、惣之助はまた「ひぃっ」と竦み上がった。
話しかけてきたのは顔が牛で首から下が人間。目の前の大男よりは小さいが、それでも村にいる大人の誰よりも大きかった。

「やだっやだ!助けてよう…!」

暴れる惣之助を大男が二人見下ろす。ぶるぶるっと腰が震えた。

「ひひゃひゃっ

漏らしおったわ」

「ひ、ぅっ」

涙で霞む視界に、突然何かが上からにょろっと突き出される。
ヘビかと思ったが、そうではない。

にょろにょろしたものは、するすると惣之助の足元へ伸び、ひたひたと滴っている足に絡みついた。

「やっ…!」

「ほっほっ。小さいのう」

絡みついたもの、蔓のようなそれがぐいっと持ちあがり、片足だけ上げた格好になる。
もがいた拍子にバランスを崩し、惣之助は背後の木に凭れた。

「こんな小穴で大丈夫かえ?最初は竜逞(りゅうてい)じゃろ」

「ぎッ…!」

もう悲鳴も満足に上がらない。凭れた木の幹がもこっと盛り上がり、人の顔のような形をして惣之助に笑いかけてきたのだから。
意識が遠のいていく。気を失う寸前、大男が呆れたようにため息をついた。

「まだ全員そろっていないが、さっさと慣らしておいた方がよさそうだな」

言っている意味はまったく理解できなかったが、その声は、あの山で倒れていた男の声にそっくりだった。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!