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Novel〜孕〜





「にいちゃん。競争しない?」

「競争?」

「そう!誰が一番たけのこを取れるか」

惣之助は時助の提案に、面倒くさそうにあさっての方向を向いた。

時助は慣れているから、勝負に勝つ自信があるのでそう言った。たまにはいつもおいしいところを持っていく兄を見返したいのだ。もちろんそれは惣之助にも伝わっていて、しかしそうとわかっていて頷けるほど、惣之助は広い心をもっていない。

どう断ろうか、と少し山の上のほうを見た惣之助の目に、偶然、たけのこがいっぱいありそうな場所が飛び込んできた。
ここから少し登ったところだが、容易に行けるだろう。そう考えて、口の端を上げる。

「いいよ。わかった

一番のドベは、これの皮むきだからな」

珍しく乗ってきた兄を不思議そうにみて、時助はとりあえず「あまり上のほうは危ないよ?」と忠告した。

「わかってるよ。じゃあ始め!!」

時助が慌ててマルに説明している間に、惣之助はすいすい山を登って行った。



「あれ…?」

確かこのあたりだったような気がするのに、と惣之助はキョロキョロあたりを見回した。
先ほど下から見た時は、頭をちょこんと出したたけのこがいっぱいあったようだったのに、まったく見当たらない。

「にいちゃーん!上は危ないってばー!!」

下から聞こえる弟の声に、「わかってる!」と返事をして、また少し上の方を見上げた。

「あそこか」

どうやら目測を誤ったようだ。すぐ上に同じような光景が広がっていた。
かごを担ぎなおして、足を踏み出す。少し斜面が急になっていて、あまり下を見ない方がいいな、と惣之助は判断した。



だがまたも、そこにはたけのこは見当たらない。

上を見れば、すぐそこにあるではないか。

しかしまたまた、たけのこは見当たらない。

こちらではなく右のほうだったかも。



その時少年の耳にはもう、たけのこが取れて歓声を上げる弟と妹の声は聞こえていなかった。







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