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Novel〜孕〜





「おにいちゃんも持ってよう」

小さな顔を隠してしまいそうなくらい、大きなかぶを抱えて、少女が唇を尖らせた。

「大丈夫かい?マル。

少し休憩する?」

しかし少女の呼び掛けに応じたのは、彼女の言った「おにいちゃん」ではない方。おにいちゃんであることには変わりないが。
むうっと頬を膨らませる少女の目の前では、二本のゴボウを剣のように構えてふざけている少年がいた。

「おにいちゃんっ」

「んー?なんだよ。お前が持つっていったんだろ?」

ようやく振り向いたと思ったら、少年はニヤニヤ笑いながらそういう。
思わずマルはうっと言葉につまった。
たしかにマルは、野菜をくれた村人にいいところを見せようとして「自分で持つ!」と言った。
しかし、この兄が「お前はチビだから持てないもんな」と焚きつけてきたのである。まだ幼い妹はそのことに気付いていないが、丸々と育ったキャベツを二つ抱えた少年、時助(ときすけ)は呆れたようにため息をついた。

途中途中で妹のために休憩を入れてやりながら、そろそろ家に着くころ。

「しょうがないな。持ってやるよ」

そう言って兄は、疲労困憊の妹からかぶを奪う。

「ありがとう。おにいちゃん」

素直に礼を言う妹に笑顔で「いいって。がんばったな」と兄は、軽やかに足を運んだ。




「まぁ。こんな重いかぶを持って帰ってくれたの?惣之助は偉いわねぇ」

帰宅し、時助とマルは「喉が渇いただろう。先に水を飲んでおいで」という兄の言うとおり、すぐに家には上がらず井戸に向かった。
そして今家の中から聞こえてきたのが、母の声だ。

「マルが、ほとんど運んだのに…。」

「いいのよ、時にいちゃん」

マルは、最後に手伝ってくれたこと、水を飲ませてくれたことで、疲れも回復し、機嫌よく兄を許している。
しかしそのことだって、兄は計算しているに違いないのだ。妹よりも長く兄を見ている時助はもうすっかり兄の性格を知っているので、マルが不憫でならない。

しかし兄、惣之助(そうのすけ)は外面だけは抜群に良く、大人は皆、惣之助は出来た長男だと思っているのだ。
はぁ、と子供らしくないため息をついて、先ほどつまづいて少し傷をつけてしまったキャベツを、時助は憂欝そうに持ち上げた。






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あきゅろす。
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