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Novel〜孕〜





「それでは叔母上、お元気で」

柔らかい低音に、はぅ、とため息が漏れる。どうしてこうも完璧なのだろうと、今までにないくらい近くからタクルを眺められている幸運にウナは大感謝していた。

やがて馬車が出発し、道を曲がって見えなくなると、タクルは見送りをしてくれた者たちの方を向いて微笑む。

「見送りご苦労だった。今日の仕事もがんばってくれ」

労われてしまった。タクル様にうわうわうわ。と、座り込みそうなウナの背を、さりげなくヤヒトが支えた。




誰もが王子を見つめる中、直視できなくなったウナはふと城門の上を見た。

「!」

何かが光っている。きらきらというより、鈍く鋭いそれが、何者かが構える矢じりだと気付いたウナは飛び出した。

「ウナ?!」

ヤヒトが突然動き出したウナに驚き、彼の視線を辿る。瞬時に何が起ころうとしているかを察した彼もまた、ウナを追う。
列を乱し、王子に突進してくる二人の兵士に何事かと城の者と仲間たちは目を見張った。




タクルの目の前で、ウナが抜刀する。背中で交差した二振りのうちの片方を構えて、周りから悲鳴が上がった。
ヒュゥンッと剣が振り下ろされる。しかしそれは王子ではなく、何もないように見える空を切った。

タクルに向かっていた矢が、真っ二つに折れた状態で芝に落ちる。まだほとんどの者が何が起こっているのを理解していなかったが、タクルは気付いたようだった。

「くせ者だ!!」

警備隊は突然の王子の声に、咄嗟に動けない。何せ場所がわからないのだ。一方ウナとヤヒトはその者のいる城門目掛けて、矢を切った後も休まずに動いていた。


「ウナ!」

城門は単身では跳び乗れない。ヤヒトが城壁を背に、手の平を組んでウナの足場を作った。
迷うことなく勢いをつけてウナがその手に片足を乗せる。

「行くぜ!!」

渾身の力でヤヒトが振りあげ、体重の軽いウナはあっという間に城門に辿りついた。
くせ者は、自分の矢が当たっていないことをに気付いて、あたふたとしている。

「くそ!」

ウナの出現に、覆面をかぶった男は悪態をつきながら飛びかかってきた。ウナが小柄なので勝てると思ったのだろう。
剣を構えながら、ウナも進む。しかし男に飛びかかられる寸前でしゃがみ込み、男の足を払った。

「ぅ、うぁッ、ぁぁああーッ!!」

ぐらぐらと、少しの間体勢を立て直そうとしたが、とうとう城の外の方へ落っこちていく。
しばらくして、どうやら足から落ちたせいで骨を折ったらしいくせ者の情けない悲鳴が上がった。


「捕らえよ!!」

下から、タクルの凛とした声が響く。はっとして周りを見渡してみたが、どうやら単独犯のようで誰もいなかった。







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