Novel〜孕〜 4 ★ タクルとは、ムジ国の次期王、つまり王子の名だ。 今年で22歳になるが、立派な体躯と明晰な頭脳、さらには王妃の美貌を受け継いだ美男で、ムジ国の乙女は皆ため息をつかずにはいられないらしい。 そしてウナも、入隊式で玉座の隣で立っているタクルを見たときから、大のつくファンだった。 男色の気があるわけではなく、ただかっこいい人をかっこいいと言っているだけで、関係を持ちたいとか、話をしたいとかそのようなつもりはまったくない。 ただ遠くからお姿を見られるだけでいい。と常々聞かされているヤヒトは苦笑しながら、ぐりぐりとウナの頭をなでる。 「あぁ、俺もジャト国との戦いに行きたかったなぁ」 ウナがうっとりと呟いたのは、彼らが入隊して間もなく始まった、北に隣接する国との戦いのことだ。その際タクルも出陣し、見事な戦果を挙げたという。 まだ新米兵ということで戦場には連れて行ってもらえず、ウナが心底悔しがっていたのをヤヒトは嫌と言うほど見ていた。 「こいつったら、まったく」 無階級試合に出ないのも、タクル様が出陣する戦場にご一緒するためだと豪語するウナに、呆れながらも行動を共にしているヤヒトは弟を見るような気持ちでため息をついた。 試合の翌日、ウナたちの隊は城へ来ていた。 試合の内容と結果を見て、次の配属先が決まるのだ。 「ウナ、キョロキョロしすぎ」 後ろから怒られて、ウナは「だって」と幾分肩を落として言った。 ムジ国の城はそれほど大きく豪華でもないので、城に入ればいたるところで王や王妃、そして王子と顔を合わせることがあるのだ。無論ウナが期待していたのは王子のタクルで、しかし残念ながらどこにも姿は見えない。 「どこかの国に嫁いだ王の妹が来てるって話だ。そっちにいるんだろ」 そんなぁ、としょんぼりと項垂れて、ようやくちゃんと配属先の説明を聞き始めたウナだった。 長々とした大臣の話を聞き終わり、やや疲れた顔で城を後にしようとしたときだった。ウナは横から小突かれて顔を上げた。 「よかったな、王子様のおでましだぜ」 「え?え!?」 目の前の仲間を押しのけて顔を出すと、ちょうど城門のところに王子が佇んでいた。 すぐそばに馬車がある。おそらく叔母の見送りに来たのだろう。 何言か話し、笑っているタクルに、きゃーっと叫びそうになるのを堪えなければならなかった。 公式の場でしか見たことがなかったので、あのように笑っている姿を見たことはなかったのだ。 「叫ぶなよウナ。ほら、お見送りの列に並ぼう」 心配顔でヤヒトがウナに声をかける。かろうじて頷き、ウナたちは城の者たちが並んでいる列にまぎれた。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |