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Novel〜孕〜






現れた青年は、すさまじく怒っているようだった。

しかし冴を見た瞬間に、はっと目を見開き、待ち構えるシャコを無視して話しかけてくる。

「遅れて申し訳ない。今しばらく待っていてくれ」

「待ってたぜメノウ〜」

わくわくと、子供のように目を輝かせるシャコは、

次の瞬間に吹っ飛んでいた。

唖然とする冴の前で、吹っ飛ばした青年は、内に爆発するような怒りを湛えて、壁にめり込んでいるシャコに話しかける。

「私のことをライバル視するのは別に構わない。たまになら決闘も付き合おう」

だが、と言葉を切って、シャコを見ている顔は冴から見えなかったのが幸いというほどの、形相で言った。

「私の花嫁に手を出そうとするなら、お前の明日はないと思え」

「イテテ…、そんなに怒るなよ」

「やっていいことと悪いことをわきまえろ。二度目はないぞ」

シャコと身長は同じくらいだが細身であるのに、どこからそんな力がでるのだろう。
人が吹っ飛んで岩壁にめり込んだのも衝撃だったが、シャコがそう重傷なようすもなく這い出してきたことも衝撃だった。
ぽかんと二人のやりとりを見ていた冴に、足早に青年が近づく。

「待たせてすまぬ。さぁ参ろう」

改めて青年、たしかシャコに「メノウ」と呼ばれていた彼をみる。
黒のように見える髪はよくみると深い藍色らしい。そして目はきれいな水色だった。

差し出された手にわけのわからないまま手を乗せる。
青年は微笑んで、ほとんど片腕で冴を抱えた。

「ったく、そんなこと言って、いままで一度だって俺の誘いに乗ったことがあったかよ」

いつの間にか降りてきたシャコは、つまらなさそうな顔をして、頭の後ろで手を組む。

「それについてはこれから善処する。まったく面倒な奴に気に入られたものだ」

「へへっ、その言葉、忘れるなよ!」

にやりと口のはしを上げて、シャコはそういうと最初に出会った地竜の姿に戻った。


のしのしと入り口に向かいながら、「あ」と声を上げ、こちらを振りかえる。


「ちょっとだけならこの隠れ家、使っていいぜ。詫びだ」

きょとんとするメノウと冴に、ニヤニヤしているらしい地竜が付け加える。

「城に帰ったら、ジジイともが煩くて落ち着いてヤれねぇだろ?」

「っ、お前な…」

さっと顔に朱を走らせたメノウを見て、からかうのに満足したらしい。今度こそシャコは姿を消した。






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