Novel〜孕〜 6 ★ 「誰かひとり出て来い 遊ぼうぜ」 夕方、見張りを含めた獣人が数名、牢屋の前に現れてそういった。 ニヤニヤと笑う顔から、親切な匂いは感じられない。出たらろくなことにならないのは明白だろう。 名乗り出るものなどいるはずもなく、クエナですら「ただの冗談であってほしい」と思っていると、痺れを切らしたらしい獣人が扉に近づいてきた。 「じゃあ俺から指名してやる。おいそこのお前!」 ビクっと飛び上がらんばかりに驚く隊員に「そうだお前だ。こっちにこい!」と獣人は催促する。 ガタガタ震える隊員に、早くしろと口々に獣人たちが寄ってきて、ガチャリと扉が開くと、3人の獣人が中に入ってきた。指名された隊員にズカズカと近寄り、その腕を取る。 その隊員はこの中で一番小柄な男だった。触られた瞬間「ひぃ!」と悲鳴をあげる彼に、堪らずにクエナは声を上げる。 「やめろ!」 ああ?と獣人がこちらを見る。頭は耳の尖った犬系の動物らしかった。 牙を遠慮なく見せる獣人に、怯むなと自分を叱咤して、立ち上がる。 「・・・私にしろ」 全員の目がこちらに向いている。犬頭はクエナの頭からつま先まで舐めるように見て、ふん、と鼻を鳴らした。 「確かお前が隊長だったな。間抜けにも俺らが襲撃したときに眠りこけてたっていう」 どっと、笑い声が獣人側からあがる。 怒りが湧くがそれを堪え、クエナは自ら隊員の腕を掴んでいる獣人に近づいた。 「ああそうだ。捕まったのもすべて私の責任。好きにすればいい。 ただし他の隊員には手を出すな」 「人間が俺たちに指図してんじゃねぇ! ならお前が『どうか他のやつと替わってくれ』と泣きつくくらい相手してやるよ! 来い」 獣人の爪の長い手が、隊員の腕から離れて扉に戻っていく。 付き添って入ってきた獣人もその後に続いた。 「た、隊長・・・」 チュヤが心配そうにクエナを見上げる。 クエナは困ったように笑い、牢屋の外に出た。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |