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Novel〜孕〜





獣人は、数年前、突然戦争を仕掛けてきた。
理由は人間が作った機械の出す黒い煙が不快だというもの。
いますぐやめろと言う理不尽な申し出を、もちろん人間の王は蹴り飛ばした。

彼らの身体能力は人間を遥かに上回っており、接近されたら勝ち目はない。しかし人間は、最近開発した「銃」でなんとか勝利と敗北を五分五分で留めていた。


なぜ、クエナたちがこのような牢屋にいるのか。
それは獣人たちに捕まったからに他ならなかった。

新人ばかりなのにも関わらず、クエナの隊は最前線に立たされていた。クエナはもちろん抗議したが、「国の為に潔く散れ」と一蹴された。
責任感の強いクエナは最前線についてから、ほとんど一睡もせずに見張りに立った。
しかし何日も経てば疲労が溜まるのは当たり前で、珍しく気を利かせてくれた隊員の厚意に甘えて、仮眠を取った途端、襲撃された。

クエナが叩き起こされたときには、ほとんどの隊員が捕まっており、自身も完全に包囲されていて、隊員の安否を考えると抵抗することもできなかった。

そして獣王の治める城に連れて行かれ、今に至るのだ。



「しっかしあんな簡単に捕まるとはなぁ!」

ひゃははと数名の笑い声が扉から聞こえる。ぎり、と奥歯を噛み締めたクエナに、一人の隊員が遠慮がちに近づいてきた。

「すみません隊長・・・。僕が、見張りを交代するといったばっかりに・・・」

小声でそう話す彼は、獣人に捕まる直前、クエナに見張りの交代を申し出た隊員だった。

「チュヤ・・・、お前のせいではない。あいつらは気配を隠すのが上手いからな。
私でも、気付いていたかどうか」

「いえ、きっと隊長だったらわかりました・・・。僕のせいで・・・本当に、本当に・・・っ」

涙を滲ませる彼、チュヤに心の中ではため息をつきつつ、拘束された手で肩を軽く叩いてやる。

するとその横で、誰かが舌打ちをした。ビクっとチュヤが肩を跳ね上げるのを見て、そちらを振り向くと、舌打ちの犯人は隊の中で一番の乱暴者、サイガだった。

「冗談じゃねぇ。ぼけチュヤのせいで、なんで俺が捕まらないといけないんだよ」

いらいらしている様子で座り込み、床を引っ掻く。その横に視線を移すと、意気消沈した顔の隊員ウクが恨めしそうにチュヤを見ていた。


「こんなところに連れてこられて・・・、もう万に一つも助かることはない・・・。
みんなお前のせいだ」

チュヤが両手で顔を覆い、とうとう泣き出す。
クエナはチュヤの肩を相変わらす撫でてやりながら、ぼんやりと「普段は絶対に意見の合わないサイガとウクでも、こういうときは気が合うのだな」と考えていた。

メソメソ泣くチュヤに、サイガのイライラが溜まっていく。そろそろ殴りかかるだろうか、とクエナが特に諌めもせずにいると、突然扉の向こうから、獣人が話しかけた。


「おい!人間ごときが勝手に話してるんじゃねぇぞ!!」

大げさなほどに驚いたのはサイガだった。きっと声を上げてチュヤに殴ろうと思っていたのだろう。すごすごと扉より離れたほうの壁へ移動していった。





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あきゅろす。
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