Novel〜孕〜 潜入 ★ ムラサとヒチは、予定よりも早く赤国に紛れ込んでいた。 兵舎に侵入し、ハルを探したが、なかなか見つからない。 「まさか、戦死したということはないよな…?」 その可能性もある。しかしスパイまでこなす相手だ。生きているほうに賭けたかった。 「もしかしたら、ここではないかもしれない」 赤国兵にうまく化けた彼らは、兵舎をあとにし、ムラサの案内である建物の前で身を隠す。 ムラサはここが、赤国の本拠地だと言った。いわば、青国でいう城、ゼンのようなものだ。 「ここにいるのか?」 「わからない。だがもし、ハルが役職についていればここにいる可能性は高い」 「調べる価値はあるな!」 「問題はどう潜り込むか、だが…」 ゼン同様に、城の警備は万全のようだ。そう簡単には侵入できないだろう。 そのとき、城の入り口が騒がしくなり、少人数の一行がやってきた。 おそらく各地の情勢を調べている者だろう。城の門が開き、数人が出てきて話をしている。 すると遅れて一人が城からやってきた。 彼らの中では一番位が上なのだろう。全員がその男に向かって敬礼している。 「!!」 ヒチは息を飲んだ。 その敬礼を受けている者こそが、かつて青国にスパイとして侵入し、ドラムと名乗っていた男だったのだ。 「いた…!あの人だ」 「なるほど、やはりいたか」 報告が終わったのだろう、解散する。ハルは青国にいたころより精悍さが増し、男らしくなっていた。 「ただの人物ってわけじゃなさそうだな…」 ムラサが苦そうな声を出す。連れ帰るのは時間がかかりそうだと予感した。 ★ [*前へ][次へ#] [戻る] |