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Novel〜孕〜
−8





お腹が熱い。
カイは目を覚ました。

その日は、調子が悪くて食事をまったく食べれなかった。
そのせいでお腹がすいたのかもと、いつもよりどういうわけかはっきりした頭で考える。

「リト…?」

最近、リトはいつもカイの傍についていてくれていた。呼べばすぐに来てくれるかと思い、声をかけるが、返事がない。

もそ、と頭を上げて部屋を見渡す。やはりそこには誰の姿もなかった。

「う…、」

じわり、腹が痛くなる。ベッドにまた沈んで、少年は泣きそうな声で世話係の女を呼んだ。

「リト、リト…どこ?どこにいるの??」



カチャリ、とカイの部屋から繋がっている部屋の扉が開き、ようやくカイの待ち人が現れる。

「リト、…」

潤んだ目で少年が、母のように慕っている女性を呼ぶと、彼女はビクリと肩をすくませ、恐る恐る近づいてきた。
カイがいつもと様子が違うことに、リトは気付いたようだった。そわそわと落ち着きなく、何度も扉を見る。

しかし彼女が、いつものようにカイの体に労わるように触れることはなかった。

「リト、リト…

お腹が、熱いよぉ」

次第に息が荒くなってくる。その時、扉がそっと開いて見張りをしているはずのリトの恋人が顔を覗かせた。

「リト、早く!」

小声で男が催促する。しかしリトはなかなか動けずにいた。

「どうしたんだ?もう皆待ってるぞ」

「でも、だってカイちゃんが…」

直感的に「産まれるのだ」とリトは思った。本当ならすぐにヤナを呼びにいかなければならない。
しかし男は、何を言っているんだと、顔をしかめた。

「まだその子供の心配をしてるのか?早く行かないとおいて行かれてしまうぞ」

じれったいのか、ギリと奥歯を噛んでいる。

「リト…、っ助けて…」

小さな手が、救いを求めて伸びてきた。
いつもなら、迷うことなく受け止めた手。

しかしそのとき、女の目には、

その細くて短い指が、違う生き物のように思えたのだ。


ぱっと身を翻して、リトは扉へ向かった。

「リト…?」

はぁ、と大きく胸を上下させて、カイはリトが向かった方へ頭を巡らせる。

男に背を支えられた女は、最後に振り向きながら、優しく言った。

「大丈夫よカイちゃん。すぐ戻ってくるからね」

カイはそれを、あの医者のような男の人を呼びに行くから待ってて、と言っているように理解した。
本当は、あの男のことはそんなに好きではないのだけど、しかたないと思い、頷く。

「うん…」

従順に頷いた少年に、リトは残酷にも「だから、大人しくしててね」と言い添えると、


扉を閉めて、どこかに行ってしまったきり、二度と帰ってはこなかった。







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