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6話
浩介は体にかかるGを感じ意識を取り戻した(というより正気に戻ったというべきか)。寝起きのような状態で視界に霞みがかかっている。どうやらエレベーターのようだ。しかもマンションのものではない。見たところ、デパートのモノのようだ。しかも昇っている。エレベーター内には、ボタンを押す場所にさっきのガードマンが一人。その対象のところにもう一人。そして浩介の右ひじをつかむ和田がいる。
ボーっとする頭を振り、目の焦点を合わす。階は30階近く。浩介の仕事場は1階だからここまで来たことはない。何が待っているのか・・・・。
ポーンと音がしてエレベーターは止まった。38階。まずガードマンの二人降り、次に浩介と和田がおりる。目の前には長い通路。7m先に扉がある。
隣ではガードマンの一人が壁に手を当てて何かをしている。数秒後、ピピピという音がし、浩介たちは何事もなかったかのように通路を進む。寝起きのようなぼーっとした頭の浩介には考えるだけの気力がなかった。

扉にたどり着き、和田がノックすると扉が横にスライドし、部屋の内装が見えた。
広い。広いとしか言いようがなかった。廊下の幅のままの広さが長い奥行分続く。もちろん浩介の部屋の比ではないし、もしかしたらスタッフルームほどの大きさがあるかもしれない。まず目に入るのは、真ん中に置かれた木製の大きな机、そしてその先に見える大パノラマ。正面の壁全体が窓になっている。そこからは町やその先の山々までよく見える。右手の方には見たことのないほど大きいソファが2つ、テーブルを挟んで置いてある。
窓の手前にこちらを見る男がいる。黒いのスーツを着て、白髪混じりの髪をオールバックにしている。顔を見る限り、40代前半というところか。
「鈴木浩介だな」
「はい」
浩介は返事をしつつも、その無機質な声に眉をひそめた。どういうことだ。
「そこに座れ。話がある」
男は続ける。アレンジの者たちの声の中で生きて来た浩介にはわかる。この声は、無機質は同じでも、アレンジで生まれたものの声ではない。
「座れ」
男はもう一度言った。和田も続ける。
「鈴木、座れ」
二つの無機質な声で浩介もようやく動いた。いそいでソファに座る。それに続き、男も座る。だが、和田だけは座らず、ソファの横に立っている。男は和田に
「和田君、神崎に例のものを持ってくるように行ってくれ。いえばわかる」
「はい」
そう言うと、和田は部屋から出ていった。
男はこちらを見ている。じっと見ている。浩介は気まずくなってきた。
「気まずいか」
思考をピタリと当てられ、浩介はびくりとした。
「気まずい。感情ある者にのみあらわれるものか。そんなもの、もう何年感じていないのか」
「え・・?」
感じた・・・・?
「でも・・あなたは・・」
「これは失敬。自己紹介が遅れた」
男は無機質な声で浩介の声を遮った。そして、こう続けた。
「私はHPデパート創設者。闇又 雄一郎だ」

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あきゅろす。
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