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4話改
営業時間を終えてデパートは光を失った。
「はぁ〜今日も終わった〜」
そんな声を上げるのは戸部一人だ。ほかのみんなはさっさと寮に戻っていく。残っているのは会計の済んでないものだけだ。浩介も会計が済んでいない組としてまだスタッフルームに残っていた。そんなところに戸部が明るい声で割り込んできた。
「おお〜浩介君、まだ終わってないのかい?」
「戸部さんは今日当番じゃないからでしょ。まったく、暇なら手伝ってくださいよ」
「いやいや〜、それは浩介君の仕事じゃないか。ちゃんとやりたまえ」
そう言って戸部さんはいつもやる脳天ぐりぐりをしてきた。調子のいいことを。浩介は手を振り払った。
いつもの行為をはじかれた戸部さんは一瞬だけ戸惑う表情を見せると、
「それよりも、浩介君、あれを見たまえ」
戸部は急に声を小さくし、人差し指を立てて、右の方を指した。
その先には白い壁があった。
浩介は訳が分からず
「壁・・ですか?」
と聞いた。が、戸部の目はキラリと光った。
「怪しいだろ?」
「は?」
「よく見ろよ、壁に隙間ができてんだよ」
浩介はもう一度戸部の指した壁を見つめた。確かに、壁に不自然な隙間ができている。大人一人がすっぽり入りそうな長方形の隙間とその中にさらに小さな長方形の隙間がある。
「なんですかあれ」
戸部は急に声を潜めて、康介の耳のそばで囁いた。
「あれはな、ドアなんだよ」
「え?」
「あの小さな長方形のやつは、パスワードを入力する奴だ。で、パスワード入れると、壁がドアになって開くんだよ」
「な、なんで知ってるんですか」
へへっと、戸部は得意げになった。戸部が自慢話をするときの癖だ。
「今日な、ロッカーに忘れもんしてな、ここに戻ってきたんだよ。そしたらよ、神崎の野郎がよ、金髪のべっぴんさんと4歳くれえのガキを連れて、壁を開けて入っていきやがったんだよ!」
その親子に浩介は覚えがあった。今日見たあの親子と見て間違いない。あの時母親は塾といっていた。あの扉の中には塾が・・?
「一緒に入ってみようぜ」
何!?
「いま、なんて?」
戸部の目は本気だった。昨日の飲み会もこのような目で浩介を見ていたのだ。
「入ってみようぜ、な?」
浩介の答えはすでに決まっていた。ただでさえ最近鷹に睨まれている上にあんなところに入ったりなどすれば、クビは確定だ。
「いきませんよ、会計終わってないんで。戸部さんもいかないほうがいいと思いますよ」
「はあ?」
戸部はまさに「何を言ってるんだ」という顔で浩介を見た。
「まさか、ビビってんのか?」
「違いますよ、ただでさえ俺たち神崎さんに睨まれてるんですよ?あそこはマジで入らないほうがいいですって。戸部さん、クビになりますよ?」
だが、戸部は全く動じるどころか、逆ギレしてきた。
「ああ!わかったよ!!もうお前なんて知らない。俺一人で行ったやらあ!!」
「だから行くなって言ってんだろ!」と浩介は心の中で叫んだ。浩介は戸部の前に立ち、少々声を荒らげて
「わかりましたよ。もう戸部さんのことは知りません。勝手に行ってください!」
「ああ、行ってやらあ。後で行きたいっていったって知らないからな!」
「行きませんから!!」
戸部は、大股でスタッフルームを去っていった。浩介は息を荒らげながらも、内心では戸部を心配していた。
戸部は確かに浩介を勝手に巻き込んで問題を起こすが、この冷えきった職場で彼だけが明るい声を常に振りまいていた。浩介が落ち込んでいるときも、彼はいつもの明るい声で浩介を巻き込んだ。そんな彼に浩介はやれやれと思いつつ憧れを抱いていた。そんな戸部に何もなければいいと、浩介は心の中で思っていた。

そんな浩介の思いは戸部に届くことなく、戸部はその夜、寮には戻らなかった。

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