小説(岩男)
違うと思った。同じだと思った。 【MQ,FQ】
『・・・お前はお前だ。』
『なんだそれ、当たり前じゃないか。』
俺がそういうと彼は笑った。
顔は暗くて見えないが、俺は「彼は笑っている」・・・何故かそう思えた。
俺が、『お前は誰なんだ?』と聞こうとした瞬間、その姿は歪み、やがて闇となった。
俺は一人闇にたたずんでいる。
暗い、深い。
だが、それも終わりのようだ。
強い光が俺を包む。
目を開けた時、そこはベッドの上だった。
【違うと思った。同じだと思った。】
「・・・夢?」
ベッドから起きたクイックは、何だか痛む頭を押さえながらそう呟いた。
「にしてはリアルだったよな・・・。」
クイックはそう言い、ベッドから降りた。
――・・・誰だったんだ、あいつ・・・。
夢の中で会った彼は笑っていた。
――俺はそいつを知っている。
特に根拠はないが、そう思えた。
(絶対に忘れない・・・いや、忘れてはいけない記憶だった気がする。)
クイックは真剣な表情(かお)でそんな事を考えつつ、リビングルームへと入った。
そこにはDWNのみんながいる。
いつもがやがやと騒がしい所だが、何故かクイックが入ってきてからどこかぎこちない空気になった。
それは、いつも脳天気で空気が読めず、考えるよりも先に体が動くタイプのクイックがいつになく真剣な表情をしていたためである。
脳天気な彼が、真剣な面持ちで何かを考えているのだから心配もするだろう。
しかも彼の目は目の前の物が見えていないかのように虚ろで、正面にあるものを映し出す・・・まるでガラス玉のようなのだ。
自らの記憶を探るような・・・過去を探すような・・・そんな目をしている。
怒りだろうか?悲しみだろうか?
彼の目から感情は読み取れない。
クイックは席に着くと机の上に肘をつき、頭を抱えた。
「く・・・クイック・・・?」
そんなクイックに戸惑いがちに呼び掛けるクラッシュの声も今のクイックには届いていないようだ。
「ウイルスかもしれないな」
全く反応を見せないクイックを見て、フラッシュはそう呟いた。
自らの背中の辺りから接続コードを取り出すと、クイックの首の辺りにそれを差し込んだ。
・・・無限に続く数字。
特に異常は見られない。
が、フラッシュはそこに不思議な記憶プログラムがあることに気付いた。
「何だ・・・?これ・・・。」
「触るなッ!!」
フラッシュがそれに触れようとした瞬間、彼の意識はクイックの強い拒絶により強制的に現実へと戻された。
クイックはフラッシュを強く睨むと、何が起こっているのか分からず唖然としているみんなを置いていくかのように一人立ち上がり、リビングルームからでていった。
紅い機体・・・
ぼんやりと見えた彼の笑み。
・・・そいつはフラッシュもよく知っている人物だった。
「あの記憶は・・・!?」
クイックの記憶プログラムで彼の姿を見たフラッシュは、驚いたようにそう呟くとチッと舌打ちをし、クイックの後を追った。
「・・・クイック!!」
フラッシュは小さい真っ白な部屋に入った。
壁も床も天井も白い。
そこに一つ置いてあるカプセル。
どこか空白を連想させるその場所は、彼の居場所だ。
「フラッシュ・・・。」
そう、クイックは彼に会いに来たのだ。
彼は今いない。あるのはカプセルに入っているコアだけだ。
「あいつは今眠っている・・・だから・・・」
「今・・・?今と言いつついつまで眠っているんだ?」
「・・・・・・。」
クイックの言葉にフラッシュは黙り込む。
クイックの持つ彼の記憶を博士が封じ込めたのは約2年前。
クイックが「あいつがいない世界で生きる気はない!」と言って自ら壊されに行こうとした事件が起こった年だ。
あの事件が起こったから、クイックの記憶プログラムから彼の記憶を封じ込めたのに・・・。
何故今それが・・・?
フラッシュが、驚く出来事の連続で頭の整理をしているときに、クイックはまだ言いたいことがたくさんあると言わんばかりに口を開いたが、開いた口からは何の言葉も発せられることはなく、ただ静かに閉じた。
フラッシュはそんなクイックを見て、そのことを考えることを止めた。
クイックは、フラッシュが話を聞いてくれそうな雰囲気になったことで、ゆっくりと口をまた開くと、泣きそうな声でこう言った。
「・・・夢の中であいつに会ったんだ。」
「夢・・・?」
フラッシュは不思議そうに首を傾げる。
クイックは続けた。
「あいつは俺に『お前はお前だ』と言った。
俺には分からなかった。だから『当たり前だろ?』って返したんだ。
だってそうじゃないか!俺は俺だしそれ以外の何者でもない!
・・・けど、あいつはそういった俺を見て笑いやがった。『まだまだだな』って言わんばかりにな!」
怒りをあらわにするクイックを見てフラッシュは思った。
彼が本当に言いたかったのはそれじゃない。
「クイック、お前はあいつの前で『俺が人間だったら』って言ったことはないか?」
「・・・何でそんな「いいから。・・・で?あるのか、ないのか。」
「・・・ある。一度だけ。」
フラッシュの言葉に、それが何だと言うようにクイックはそう言った。
「つまりな、『お前はお前だ。人間にならなくったってお前を愛せる』って言いたかったんじゃないのか?」
「え・・・。」
フラッシュの言葉にクイックは固まった。
フラッシュは続ける。
「クイック。お前は人間と俺達は違うと思ってるかもしれないがそれは違う。」
「なんでだよ・・・違うじゃないか!なにもかも!!」
「逆だ。俺達は人間と同じなんだ。
心臓の代わりにコアがあって、感情もあって、恋をして、愛し合って、傷ついて・・・違うとこなんてなにもない。
・・・あいつはお前に生きてほしいと思ってるんだ、クイック。」
「・・・っ・・・」
クイックはフラッシュの言葉に息を呑んだ。
二人はしばらく見つめ合っていたが、「最初はな・・・」と、クイックの方から切り出した。
「最初は俺も死のうと思った。コアは生きているとはいえ、損失が酷すぎて・・・あいつはもう戻ってこないと思ったんだ。」
「ああ、それでお前は敵の中に一人で入っていき死のうとした。」
フラッシュはクイックの言葉に軽く頷き、続きを促した。
「でもな、死ねなかった・・・。戦闘用に作られた俺は死ねないようになっていたんだ。」
「・・・・・・。」
「でも今なら思う。
…それでよかった。」
「・・・クイック。」
「たしかに俺はあいつがいないのは・・・つらい。
でも、お前らがいる。
・・・あいつが俺が死ぬことを望んでないならなおさらだ。
俺は生きる。
生きて生きて・・・あいつの分まで生きてやる。」
「・・・ああ。それでこそお前だ。」
クイックの言葉は一つ一つ強くなっていった。
そんなクイックを見てフラッシュもフッと笑った。
「じゃあ、あいつにもその心意気をみせてやれよ。」
フラッシュの言葉にクイックは一度だけ頷くと、壊れたコアの入ったカプセルの前に立った。
「・・・俺はあんたじゃないけど、あんたの思いは受けとった。
あんたの分まで生きるから安心して眠れ。・・・メタル」
クイックはそういってカプセルに背を向けた。
フラッシュはそんなクイックを見て、一足先にその部屋を出た。
クイックもそれに続き、部屋を出ようとした瞬間、後ろから何かに抱きつかれた感じがした。
クイックは一瞬驚きと期待で振り返りそうになったが、思い止まった。
ドアの前まできたところで一言こう呟いた。
「・・・最後の最後まで不意打ちなんて卑怯なんだよ。」
そういってクイックはその部屋を後にした。
――その部屋はもう空白じゃない。
・・・その部屋は自分の一部なんだ。
クイックはそう心で呟いた。
End
あとがき
正直まとまらなかった…。つかめったん、勝手に死なせちゃってごめんm(_ _;)m
本当に皆様にも謝りたいです…。
いつかもうちょい詳しくした何かを書きます…きっと←
期末が終われば書けるはずだ…!!
追記
少し変えたよ!!
・・・あんまり変わってないけどね←
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