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 相変わらずの鉄仮面だが、針のように細められた目ではなく暗い影を落としたいつもの目に変わっていた。苦しそうに荒い呼吸を繰り返す男にゼオシスは大丈夫か、と尋ねた。男がこくこくと頷くのに対して満足するかのようにゼオシスも頷き返す。
 そしてファリクスから踵を返した。ゼオシスは男を別の警官に預けようとゆったりとした足取りで近付いていく。少なくなった野次馬の円はまばらになっていた。日も傾きかけていて、細長くゼオシスの影が伸びている。鮮やかな夕焼けの中、ファリクスはその後ろ姿を呆然と見ていた。
 ファリクスの今目の当たりにしている光景は、彼のよく知る知っている総督の姿ではない。それが信じられなかったのだ。
 あれは、誰だ。故郷を焼いたのは、奴ではないのか。
 ファリクスは刀を握りしめて立ち上がった。今までの復讐へ駆り立てる憎悪を思い出せ。両親、家族、弟、そして翡翠の瞳。奪ったのは聖十字。
 仇は、目の前にいる……。

 次の瞬間、雄叫びを上げてファリクスはゼオシスに向かって切りかかっていた。両手の塞がったゼオシスは瞬間に振り向いて、ファリクスが切っ先を突き出したのを目視した。そして、ファリクスの眼帯で塞がっていない、生きている目が涙を流している。
 感情に振り回されながら生きる、哀れな人間。飛びかかってくるファリクスにゼオシスは舌打ちした。本当に、面倒な輩だ。
 咄嗟に男を警官の方に放り渡して警官たちが倒れこみながらも男を受け止めたのを見届けた。そして、すぐさま銃をホルダーから出して銃口を向けた。しかしゼオシスの速さをもってもファリクスの方が先攻していて追いつかない絶対的な時間の差がある。

 しかし、ゼオシスは目を見開いてトリガーを引いた。

<*last>

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あきゅろす。
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