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 一気にファリクスはカイロの元ゼオシス下の警官に囲まれてしまった。レイも保護されて、対峙するように間のあるファリクスとゼオシスの二人を見比べるしかない。とりあえずファリクスの手を抑え込むことが出来そうだ。ゼオシスは壁を伝いながらなんとか立ちあがった。
 しかし、そんな時だった。ファリクスは警官の発言に吹き出して大笑いしたのだ。それには巡査部長らしき人物も黙ってはいられない。

「何が可笑しい!?」
「ハハハハハ! 総督がいないだって? ポリ公、何にも分かってないようだな!」
「何を言っている、これ以上事を起こすと撃つぞ!」

 通りの真ん中、舞台の中央でファリクスは一斉に周囲から拳銃を向かれた。ぐるりと見回すと銃口がこちらを向いて牽制してくる。
しかし一方の標的となっているファリクスはむしろ余裕綽々と剣を振って、再び切っ先をゼオシスに向けた。

「全く、カイロでは人気者みたいだなぁ、オイ! 何か答えてやったらどうなんだ! こっちには既に顔も経緯も掴んでるんだからな!」
「……お前」
「冷酷非道と他支部からは評され、250年にも渡り姿を見せなかったせいか、周りの目には非常に敏感。そんな男が汚い身なりのレジスタンスの女を連れてうろちょろうろちょろされたら、そりゃあ悪目立ちするよなぁ。
 わかりやすかったぜ、異様な雰囲気で歩いてるのは! まぁ自分の居場所を失って路頭に迷えばそんなもんだよ。
 ……そうさ、見てくれは貧弱に装っているが、奴こそアレクサンドリア総督。

 ……ゼオシス=イスラーフィールだ!」

 そのファリクスの声は広場に響いた。辺りは想像しえないことに対してしんと静まり返った。野次馬含む市民は無論、警官らもゼオシスを不審げに見るので、レイは慌ててファリクスに言い返した。

「ま、まさか、総督は死んだって私は聞いたぞ!」
「嘘ついて逃れようなんてダメだなぁ、レジスタンスの生き残りちゃん?」
「だから何を言っているんだ! 私をレジスタンスなんて……まさか!」
「だから、言ってんだろ。俺はもう真相を知ってるの。女の子を取り入れてまで悪あがきすんなよ、総督閣下?」

 ファリクスはそうゼオシスに話しかけると、不意に俊足で後ろにいた女性の手を掴んで彼女の首に刃を翳した。

「キャァアアアアッ!」
「ガタガタ騒ぐんじゃねえよ。今から総督閣下が助けてくれるんだからよぉ」

 辺りは騒然となった。まさかあの青年がとゼオシスに疑いを持つ声が大きくなっていく。レイはゼオシスの名を叫びたくても叫べなかった。ここでゼオシスが沈黙している意味もなくなる。レイはゼオシスが今の今までことを大きくしないように目配りしていたのを察していた。声をあげるのもよくない。黙って苦渋の内に目を閉じるしかなかった。
 するとレイの周りでどよめきが起こった。ハッとなって目を見開くと、ゼオシスは静かに両手を上げて立っていた。

「お願いです、俺は総督ではありません。人違いです。だから、女性を解放してやって下さい……」

 ぽそぽそと話すゼオシスの姿は見るからに華奢で弱そうな青年の姿だった。一度太刀を浴びて、ゼオシスは生き絶え絶えのようにも見えた。
 流石だとレイは思った。お陰で民衆もファリクスに非難の視線を送っている。警官らもため息をつくと、ファリクスに近づいて呆れたように彼に告げた。

「とりあえず、事情聴取にしようか」

 一見、ここまではゼオシスに采配が上がったように見えたのだ。
 次の瞬間、ファリクスは激怒した。

「しらばっくれんな、総督! こっちが下に出てるからって調子付いてんじゃねぇぞ! こうなったら、無理矢理現してやる!」
「イヤァアアアアッ!」

 ファリクスは剣を振り回して警官らを散らすと、捕らえていた女性を掴んで剣を振り上げた。
 剣が振り上げられて女性を殺すまで一秒もなかっただろう。しかし、広場のタイルの上に女性の血は飛んでいなかった。むしろゼオシスの背中に深々と剣が刺さっており、女性を庇う状態だった。

「あ、あぁっ、」
「……速く逃げろ、」

 ゼオシスの低く凍るような声音に女性は声にならない声を上げて、転がるように周囲の和の中に逃げ込んだ。それを見届けたゼオシスは剣の刃を掴んで、無表情で剣を払った。

「レンズは入ってないとは言え、眼鏡が揺れて動きにくい……」

 そっと眼鏡を取り、胸ポケットにゼオシスはそれを入れた。広場は時が止まったように静まり返っていた。眼鏡を取って一層完全な美しさが際立った。人にはない、赤紫の眼。最早鬘もずれて銀髪が隙間から日に照らされて輝いている。

「この日を待ったぜ、総督閣下……」

 ファリクスの言葉を聞き流しながら、ゼオシスは黒い鬘を掴むとその場に落とした。
 現れたのは正しく総督の一種の象徴である、銀髪に光る赤と紫のコントラスト。一振りを浴びても、目を閉じて深呼吸を一度すれば驚異の治癒力で治りつつある。細胞が活性化しているのだろうか、蒸気の様なものが傷口から上っている。

「……早急にカイロから出ろ。市民の保全の為だ、さもなければ私が直に手を下す」
「むしろお前との手合わせを待ってたぜ、オイ!」
「やめておけ。私は制御を知らない。死んでも知らないぞ」

 淡々と話すものの、ゼオシスは少しずつ背中に市民を集めて自らを縦にする形に持っていった。それにはファリクスも気付かないわけなく、ニヤニヤと笑いながらゼオシスを見た。




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