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 先の二人組を確かに追って来たはずだ。尾行に絶対の自信を持つのだ、まさか見失う事はあるまい。

 鞘を引き、剣を抜く。擦れる音と共に、刃が弱光を受けて煌めいた。

 とんでもないものに出会ったのかもしれない。
 忽然と消えた二人の男女。女の身はみすぼらしいが、一方の男はそれなの服装をしてた。

 アスタロトはこれを知ってたのだろうか、あの赤い男を計り知る事は出来ない。

 しかし、その時だった。背後でグリップに力を入れる音がしたのだ。

 その音と共に、今までなかったはずの気配が後ろに現れた。後頭部に鉄の塊の感触がする。
 間違いなく、銃を突き付けられている状態だ。

 形勢逆転。今度はファリクスが追い詰められる側となってしまった。予想以上に相手は遣り手らしい。
 職業柄、尾行はお手の物だったのだが、相手も相応の修羅場を潜り抜けてきたようだ。

 どんな人物か、ファリクスは恐る恐る頭を少し動かした。頭を掠める銃口に迷いは感じられない。これは“慣れている”証拠だ。
 そして、そこには意外にも女性の姿。先ほど追っていた二人組の片割れであった。

 メッシュにしては、人口的に見えない青い髪が映える。そして、何よりも敵意に満ちていた、空を切り取ったような青い瞳が印象的だ。

 ファリクスの知る女性とは皆揃って着飾り、美しさを競い合う存在だった。
 しかし、彼女は化粧もしていなければ、男を魅力するドレスも着ていない。全く、新しい種であった。

「さっきから後ろ着けて来るなんて、物騒だな」

 ファリクスが想像していたより、女の声はぶっきらぼうだった。

 カイロは発展した都市だ。砂漠化が進んだアフリカ大陸において、カイロは重要な交流の要となる。ここからアフリカ大陸の各都市に繋がっていく。
 ここの治安を保つ事は、アフリカ大陸を治めるのに欠かせない事なのだ。

 そんなカイロに銃の扱いが慣れた人物、いかにも貧しい出身の女がいるとは。統治する総督がいなくなれば、低俗な者が流れ入るのは予想範囲内だ。

 しかし、幾らなんでも早すぎやしないか。

 ファリクスはひとまず落ち着くよう努めた。これは逆に言えば、大当たりである。何かあるとファリクスは確信を持った。

「参ったな、いつから気付いてたんだ?」
「最初から。嫌なつけ方をする奴だ、気持ち悪い」
「最後の一言はいらねぇな」

 口も達者なようで、ファリクスはやれやれとため息を吐いた。

 だがしかし、相手は女だ。力の差は歴然としている。
 横目で一瞥した彼女の体つきはとても男に敵うようには見えない。そんな腕で、何が出来るのか。精々トリガーを引くのに精一杯だろう。

「連れの野郎はどうした。いなくても大丈夫なのか?」
「私を甘く見るなよ」
「仕方ねぇだろ。……勇ましい姉ちゃんよぉ、テメェは――女だろーが!」

 一気に刀を抜いて、ファリクスは下から女に向かって刃を突き立てた。
 僅か目と鼻の先に切っ先は止まった。その時間、一秒か。それ以下か。。

 女は驚いたようで、僅か数ミリ鼻の先に浮かぶ鈍い光を見つめた。
 その悪い口を閉じれば良いのだ。ファリクスは笑った。

「速いな」
「そこら辺のゴロツキと一緒にすんなよ」

 女は感心したようで、珍しげに切っ先を眺めている。自分に凶器が突き付けられているにも関わらず、その余裕は何なのか。
 ファリクスは冷たく目を細めた。

「……怖くないのか」
「別に。何で怖くなるんだ。私はむしろ凄いと思う」
「変な奴だな。連れの野郎に助けを求めるかと思えばそうでもないってか」
「連れの野郎はアンタなんか及ばない程強いよ……」

 レイはゼオシスの昨日の総督の姿を見ている。レイもレジスタンスの中では突出した銃の使い手ではあったが総督はより速かった。
しかしあの日に少なくとも総督は眉間と全身に弾丸をアスタロトから撃ち抜かれている。貧血にはならないのか。
 レイはゼオシスをまだ知らないながらもその身の限界を案じた。
 総督という立場のために、明るみに出ずとも首を狙う人は多くいる。
 その一人のはずだったのだが、とレイはため息をついた。




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