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祭りを渡る恋の花  (忍足)
自分が先に来ようと決めていたのに。
 

「お、水上さん浴衣めっちゃ似合うなぁ」


「そ、そうかな?ありがとう。てか待たせてごめん・・・」


「全然待ってへんで」


ならよかった、そう呟く自分が無性に情けなくて仕方なかった。

時間には間に合ってるけど、忍足くんの方が早く来ていたのだ。


「てか忍足くんもすごい似合ってる・・・いいなぁ、着こなせる人って・・・」


彼の浴衣姿はそりゃもう死ぬほどかっこよくて、隣にいることを躊躇うほどだった。


「何言うてんねん。水上さんめっちゃ美人やで?
襲われんように気つけえや」


クスクスと笑う忍足くん。


ああ、どうしてこの人はこんなにカッコいいんだ。

あたしの心臓はもうすでに爆発寸前までときめいていた。


今日はこの人を独り占めできる。


あたしはなんて幸せなんだろう!





祭りを渡る  恋の 花





「今度のお祭り・・・跡部と都カップルとあたしと忍足くんの4人で行こうって言ってるんだけど、いいかな」


「全然ええで〜・・・けど・・・あのバカップル一緒やと逃げたくならへん?」


「あぁー・・・2人の世界激しいしね・・・」


「水上さんがええんやったら・・・俺と2人で行かん?
もし合流するんやったら途中からとか」


そのときはあまりに挑戦的な行為を提案されたことによる
極度の緊張で

「都に相談する!」

と口走ってしまったが、内心は嬉しくて死にそうだった。

報告のために跡部バカップルを探して、広い校内中を走り回った覚えがある。



それぐらいあたしは、忍足くんが好きだ。





「下駄、痛ない?」


「ううん!全然大丈夫!」


「痛なったら言うてな。お姫様だっこしたるさかい」


またおもしろそうに口の端を上げる忍足くん。


「あたしの体重が忍足くんの腕で支えられるかな!」


会話が楽しくて、緊張もせずに笑って話せた。


「そんなん問題外やわ。だいたい自分、折れそうなぐらい細いのに」


そんな会話に癒されながら、ソースの香りと人の笑い声がいっぱいの神社についた。


「水上さん何食べたい?」


「え、たこ焼き・・・!」


しまったと思った。


ここは可愛く「リンゴ飴」とか「わたあめ」とかにしておけばよかった・・・!


そう思っていると、忍足くんの手があたしの頭上に降ってきた。

そしてポンポンと2回あたしの頭を叩くように撫でた。


「やっぱお祭りはたこ焼きやんなあ。よっしゃ、俺買うてくるわ」


「あ、ごめんね。えっと・・・300円・・・かな」


お金を渡すために差し出した手は、あたしの胸の前に押し返された。


「ここは俺におごらせとこか」


ニコッと最上級の笑顔で微笑まれるとどうも言い返せなくなる。


「ごめん・・・じゃあお言葉に甘えて」


「ん。それでええねん」



なんだか本当に夢みたいだ。


でも夢ではない。


わかりきってることなのに、あたしにとってはそれが一番嬉しかった。





○●○●





「わ、すみません」


人酔いしたのか、だいぶ頭の中がグルグルしてきた。

そのせいでよく人にぶつかる。

浴衣はしんどいし、下駄もだんだん痛くなってきた。

でも、今が最高に楽しいあたしには、なかなかそれを言い出せなかった。


気付いたら、隣にいるはずの人がいない。


「あれ・・・ヤバいな・・・」


そう呟いて辺りを見回す。

ボーッとしてたから悪いんだ。

少し泣きそうになっていると、後ろから勢いよく腕を引っ張られた。



「椿!」



幻聴か。


さっきまで「水上さん」と呼んでいたはずの忍足くんの声があたしの名前を呼び捨てにしている。

ゆっくり振り向くと、そこにいたのはやっぱり忍足くんで。


「大丈夫か?流されんようにちょっと横にどいてたんや。そしたら途中で椿のこと見失ってしもて・・・」


忍足くんに手を引かれて、人気のない境内のところまで来た。


「ごめんね、あたしちょっとボケッとしてて・・・」


「全然ええよ、それよりちょっと休もか」


忍足くんはあたしの足をちょんちょんと指差す。

バレていたらしい。


「ごめんね・・・ありがとう」


気遣いが嬉しくて、ニヤけが止まらなかった。

 

大きな石に座って色んな話をした。


忍足くんはテニス部のことを

「めんどくさい奴ばっかやねん」

と言いながらも、楽しそうに話してくれた。


「いいね、仲間って」


「友達関係とかってすごいよな。俺と自分やって、高1で初めて同じクラスなったのに」


「そうだね。あたしは忍足くんの存在は知ってたけど、忍足くんはあたしの存在知らなかったわけだし・・・」


あたしがそう言うと、忍足くんは何か思い出したような顔をして、こう言った。


「侑士、やで」


「え?」


「俺の名前、侑士ゆうねん。言うてみい?ゆ、う、し」


「ゆう、し?」


「せや。もうまどろっこしいのはやめよ。侑士と椿でええやろ」



今日は2人でいれればそれでいいと思っていた。



なのに、そればかりか名前呼びにまで発展して・・・

ついでに言えば、さっき手を引かれたときに手もつないでいるのだ。


そう思うと、急激に心拍数が上がって頬の紅潮が隠せなくなった。


恥ずかしくて、目を合わせられなくなった。


「椿?どないしたん?」


「なんでもないよ・・・」


「なんで顔背けてるん」


「いや、ちょっと目にまつげが入っちゃったみたいで・・・」


適当な言い訳だ。


「俺が取ったろか?」


「い、いいよ!」


「さよか・・・あんまいろたらあかんで?」



まだ心拍数が激しい。



さっきまでどうやって笑っていたかわからなくなるぐらい

あたしは緊張していた。


「さっき椿、俺が唯の存在知らんかったみたいなこと言ったやろ?」


「・・・うん」


「俺、椿のこと知ってたで?」


「え・・・!?なんで!?」


また一気に心拍数が上がる。


「跡部から聞いてたんや。都の親友とやらがめっちゃアホでおもろいんやと」

クックッと喉をならして笑っている。


「何それ!失礼すぎるでしょ!」

あまりに失礼な紹介に立ち上がってしまう。


「まあまあ、落ち着きい。
やけど跡部は、俺様たちカップルに気を使えるいい奴だとか言うてたから・・・
初めて椿見たとき、親友をこんな俺様バカに取られて寂しい思いしてるんちゃうかな思ったんよ」


「そうなんだ・・・で、でもあたしはそんなに寂しくなかったよ!?
都の恋が実ったことが嬉しかったし・・・」



本当は寂しくて、その時出会って声をかけてくれた侑士に恋したなんて、まだ言えない。








「で、俺とおったらそんな寂しい思いさせへんのにって思たんや・・・」







「え・・・」


その言葉は、まるで告白のような響きで耳に入ってきて・・・。


「なあ・・・椿はなんで今日の祭り、俺と2人でええと思ったん?」


うつむくあたしの顔を覗き込むように、侑士の真剣な顔が見える。


「さっきなんで顔・・・背けたん?」


全て見透かしたような色の瞳があたしを見る。



言わなければいけない。



言ってもいいんだ。




「あ、あたしは・・・っ」







          ドーンッ







まるで誰かが作った物語かのように、言葉の途中で花火が上がる。

ボソボソと口を動かしても届くはずのないような大きな音と、空を彩る大きな花が2人を包む。

何故か侑士の顔がだんだん笑顔になっていく。

あたしはもう情けなくて黙り込んでしまって・・・。



すると、とんっと侑士は自分の方にあたしを引き寄せた。



顔がありえないほど近くになり、眼鏡の奥の瞳がよく見える。



「こうしたら・・・よお聞こえるやろ・・・」



あたしの耳元で囁く侑士の声はあたしの心臓を再び爆発寸前にする。


でも、ここで言えなかったらもうチャンスはないということぐらい、あたしにもわかっていた。




「ゆ、侑士のことが・・・好き・・・だから・・・」




あたしもしっかり侑士の耳に近づいて、そう言った。


侑士はかすかに微笑む。




「俺も椿んこと・・・めちゃめちゃ好きやで・・・」




あたしの目をじっと見つめて、あたしの緊張を溶かしていく。

それと同時にあたし自身も溶けてしまいそうになって・・・。



そのまま花火を見ることもなく、あたしたちは何度も唇を重ねた。






――END









良唯がただ忍足と祭りに行きたかっただけです←
おそまつさまでした!


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