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小さな恋のキューピッド  (日吉)
              
             
             
 
 
 
                     *小さな恋のキューピッド*


 
 
 
 
 
 
「あ、わか!どうしたの」
 
 
幼馴染みでお隣さんの日吉若があたしの声にばっと振り向く。

 
「・・・お前か」

 
「なにその"なんだ"っていうような言い方は」

 
「本当はそう言いたいところを我慢してるんだよ」

 
「うん、もうその時点でいっちゃってるからね」

 
あたしは少なからずショックを受けながらも適当に突っ込んだ。

 
「あ、猫だー!」

 
「しっ、静かに!寝てんだよ」
 
 
あたしの口をかぽっと手でふさぐ。

 
「ん、は、ほめん」

 
ごめんという言葉も、わかによって制される。

 
「お前絶対可愛い可愛いってはしゃぐだろ。ずっとふさいでてやる」
 
 
「は!やら!しうはにふるはらっ!」
 
 
「静かにするから?・・・本当に、だな」
 
 
わかはそう言ってすぐに手を離してくれた。

 
「ぶはっ!はあ、呼吸、できないんだか、らね!」

 
「悪かったな」
 
 
「ったくわかは短気〜」
 
 
「知るか」
 
 
そんなやりとりをしてる間に段ボールの猫は目を覚ました。
 
 
「そらみろ!お前のせいだ!」
 
 
「違う!わかだってさっき大声出してた!」
 
 
「もうどうでもいい・・・よっと!」
 
 
わかは目を覚ました猫を抱き上げて嬉しそうに微笑む。
 
 
その顔は幼なじみのあたしでも見たことのない顔で、思わずこっちまで微笑んでしまう。

 
「・・・なんだよ」
 
 
あたしの視線に気付いたのか、バッとこっちを向いた。

 
「や、なんでも・・・」
 
 
「なんかついてるか?」
 
 
そう言って首をかしげる。
 
 
「ううん。ただ、わかって可愛いなって」
 
 
「何言ってんだよ・・・」
 
 
 
 
ボッとわかの顔が赤くなるのがわかった。
 
 
 
 
「あ、テレた!かっわいい!」
 
 
「うるせえ!可愛いって言われて嬉しい男なんているかよ!」
 
 
「嘘ばっかー!いつもはカッコいいけど、今はすっごく可愛いよ」
 
 
 
 
ついついさらっと出てきた本音は"好き"の気持ちをギュッと締め付ける。

 
 
こういうとき、あたしは本当にわかのことが好きなんだなあと思う。

 
そして、さらっと言ったその言葉に反応しないわかは
 
あたしのことがどうでもいいんだろうなあと実感する。
 
 
「その猫拾ったの?」
 
 
「あぁ、飼ってやるんだよ」
 
 
「わー、わか優しい!」
 
 
肩をさりげなく叩いて笑いかける。
 
わかはなぜか怪訝そうな顔をする。
 
 
「なに?どうしたの?」
 
 
「・・・なんでもねえ・・・」
 
 
「なによ!」
 
 
「なんでもねえよ!」
 
 
あからさまに眉間にしわをよせているわか。
 
どうしたと言うのだろう。
 
 
「なんでそんな突然機嫌悪くなったの?」
 
 
「・・・さっきからお前、俺のこと可愛いと思ってんのか?」
 
 
「は?なんでいきなり・・・」
 
 
「女友達に言うみたいな・・・あの感覚の可愛い、か?」
 
 
「だからなんでそんなに真剣に・・・」
 
 
 
 
 
そこまで言って気付いた。
 
 
 
 
 
わかの顔がすっごく赤い。
 
 
 
うつむいていてもなんとなくわかる。
 
 
 
 
 
「や、え、わか・・・?」
 
 
「っるせぇ・・・こっち見んじゃねえよ・・・」
 
 
「あ、ごめん・・・」
 
 
 
 
すごく微妙な空気が流れる。これってもしかして・・・。

 
 
 
 
 
 
「椿・・・」

 
 
 
 
 
そんな沈黙を破るように、わかがあたしを呼んだ。

 
「はい!な、何!?」

 
「お前を呼んだんじゃねえよ、バカ!」
 
 
「はあ?今のあたしの名前だったでしょ!?何それ!」
 
 
「この猫の名前、椿にするから!間違えんじゃねえぞ」
 
 
バッと立ち上がって、猫の唯を抱き締めて、猫の椿を見つめる。
 
 
 
 
 
「椿・・・愛してる・・・ずっと前から好きだった・・・」
 
 
 
 
 
まるであたしに言っているように聞こえるその言葉は頬を紅潮させるには十分で・・・。
 
 
 
「やだ、わか・・・紛らわしいからやめようよ、その名前!」
 
 
 
「今のは・・・」
 
 
 
 
ちゅっ・・・聞こえたリップ音と同時にあたしの唇に触れる感触。
 
 
 
 
「今のは・・・こっちの椿に言ったんじゃねえよ・・・」
 
 
そう言って、家の方へ帰るわか。
 
 
 
 
なんて紛らわしいんだろう。
 
 
 
 
あたしも椿で、この猫も椿。
 
はじめに呼んだ椿はあたしじゃないけど、さっきの言葉はあたしへの言葉。
 
キスしたのは・・・あたしとわか・・・。
 
頭がおかしくなりそうだ。
 
 
 
 
だけど、わかの後ろ姿を見てわかった。
 
 
 
 
「あ・・・あたしもわかが好きだよ!大好き!ず、ずっと前から!」
 
 
そう叫ぶと同時に、猫の椿はわかの腕をすり抜けた。
 
 
「おい!椿、待て!」
 
 
「わっ!」
 
 
そして、しゃがんだあたしに飛び付いた。
 
思ったより小さい椿はあたしの頬をペロペロ舐める。
 
 
「あははっ、くすぐったいなあ、もう!」
 
 
「椿!あ、猫の方!戻ってこい!か、帰るぞ!」
 
 
あたしの告白を聞いたからか、わかは余裕のない表情をして焦っている。
 
なかなか離れない猫の椿を見て、呆れたように少し微笑む。
 
 
 
「なんだ?逃げるなってことかよ・・・」
 
 
 
吹っ切れたのか、こっちに戻ってくるわか。
 
気持ちを伝えてしまったと思うと、かなり恥ずかしくなる。
 
 
 
 
「椿」
 
 
「え、あ、猫?」
 
 
「お前だよ!」
 
 
「そんな怒られても、あたしと同じ名前を猫につけるわかが悪・・・んっ」
 
 
 
 
またあたしの唇に触れる感触。
 
今度はさっきよりずっと長い。
 
 
わかが拾ってきた小さな恋のキューピッドは、
 
動くこともせず、ただただあたしに抱かれていた。

 
 
 
「椿・・・愛してる・・・そう何回も言わねえぞ・・・」

 
 
 
わかは唇が離れてからもしばらく、
 
この小さな恋のキューピッドごとあたしを抱き締めていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――END
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なんかベタなネタですね〜笑
まあ良唯の脳内は結局ベタ思考なんだと思われます。
日吉大好きです!猫駆(ryじゃなくて、下剋上!
一回も下剋上と言わなかったですねww
本当は拍手夢にしようと思っていたのですが
どうしても名前を出さざるを得ないシナリオになってしまったので
普通の夢に変更しました。
お粗末さまでした。


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