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センチメンタル・オクトーバー  (忍足)
 

 


「ゆーし、なんか寒い・・・」

「せやなあ。だいぶ肌寒くなってきよった。手ぇ、繋ごか?」

「うんっ」



そう言ってくれることを期待していた。



自分から「繋ぎたい」なんて、絶対に言えないから。

今まで侑士と恋愛をしてきたたくさんの女の子は、皆自分から言えていたのかもしれない。



「えらい静かやし、暇やなぁ・・・」

「そりゃあ侑士好みの"静かな公園"ですから」



足を動かすと、まだ少ししかない落ち葉が音を鳴らす。



「ごもっともな意見やわ。せやけど、暇潰しに・・・しりとりでもしよか?」

「お、いいね!受けて立つ!」


どんなに些細なことでも、楽しければ、それは幸せと直結する。




だけど、やっぱりこの季節特有の切なさには、気持ちが勝てない。




「『しりとり』の『り』、からね」

「り・・・ここは無難に、『りんご』やな」

「ご、ご・・・あ、ご臨終」

「なんちゅう縁起悪いこと言うねん。・・・う・・・うこっけい」

「い・・・慰謝料」


私の頭に浮かぶ言葉と言えば、どうにも悲しいものばかりだった。

自分でもよくわからないけど、秋の夕暮れはなんだか寂しくなるのだ。



公園は夕日で、オレンジ色に染まっている。



「また『う』、やん。う・・・う・・・馬」

「ま・・・ま・・・幻」

「まぼろし、か。し・・・し・・・幸せ」

「せ・・・戦争」


私がそう言うと、侑士は足を止めた。

見上げると、訝しげな侑士の顔。


「なあ、椿・・・どうしたん?」

「・・・何が?」

「手ぇ、握る力だんだん増しとる。しかもさっきから、なんや言うてること全部悲しいことばっかやん」


風が、侑士の濃紺の髪をさらさらと揺らす。

侑士の手が私の頬に触れて、そこに温もりを灯す。



こんなにも幸せなのに、どうして私は悲しくなっているんだろう。

どうしてひとりでに、切なくなっているんだろう。



私は、侑士に抱きついた。



「・・・なんや、今日はえらい甘えん坊なんやなぁ」


甘い声でそう言って、強く抱きしめ返して、頭を撫でてくれる。


「なんか・・・ちょっとセンチメンタルな気分になってた・・・」

「センチメンタル、なあ・・・。まあ秋やしな、黄昏れてなんぼや」

「黄昏れてなんぼ・・・。そうだよね」


幸せが怖いことなんか、滅多になかった。

今になって私は、初秋の切なさに負けて、幸せに恐怖感を覚えていた。



だけど、もう大丈夫。



「大丈夫やで・・・。俺は椿から離れたりせぇへん。
落ち葉みたいに散ったりせんし、夕日みたいに沈んだりもせんから・・・」


私はしがみつくように侑士に抱きついて、顔を胸に埋めたまま、ちょっとだけ泣いた。






「侑士、もうすぐ誕生日だね」

「せやなあ。また今回も跡部が張り切ってるわ。たかが部員の誕生日でそんな盛り上がらんでも・・・」

「多分、跡部は皆が喜ぶのが見たいんだよ。私も誕生日は、嬉しそうな侑士が見れるから好きだよ」


私がそう言って視線を上げると、侑士は眼鏡越しに目を細めて微笑んでいた。


「・・・せやったら、俺も誕生日好きになるわ」

「うん、それがいいよ。絶対!」

「やから・・・」




静かに、唇が重なる。




「・・・椿も寂しがらんと、秋を好きにならんとな」


私は微笑んで、大きく頷いた。









END――


まだ初秋って言うんだよね。
良唯は秋の寂しい感じ、大好きです。

もうすぐ侑士の誕生日!

2009.10.13 (Tue)


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