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世界で一番甘いもの  (丸井)
 
「ちょっとブン太!」

 
「なんだよ、椿」

 
「お菓子食べ過ぎ!」

 
「あ、ちょ、とんなよっ」


 
 
 
 
               世界で一番甘いもの


 
 
 
 
 
さっきからイライラしていた。
 
こいつは幼馴染みの家に押し掛けてきたあげく、
新作お菓子について一方的に語りまくっていたのだ。
 
そしてその後、ずっとそれを黙々と食べているのだ。
 
高校1年にもなって、異性の幼馴染みの家に
飄々と訪ねる時点でまず考えが足りてないんだけど。
 
まあそれはあたしに気が全くないことを示しているだけの話で。

「ちょうだい」と言っても、おいしかったら
 
 
「やるわけないだろぃ」
 
 
だし、まずかったら
 
 
「まずいからやるよ」
 
 
だし、相当な自分勝手である。
 
しかも「まずい」と渡されたものは、本当にまずいのだ。
 
迷惑このうえない。
 
そんなこんなでいらだったあたしは、ブン太からお菓子を取り上げた。
 
 
というか、構ってもらえないからっていうのもあるんだけど。

 
「ん、これおいしい」

 
「だろぃ?・・・じゃなくてお前勝手に食うなよっ」
 
 
「いいじゃん、いっぱいあるんだしっ」

 
「あのなあ、俺の金なんだぜ、これ!」

 
「場所かしてあげてんだからいいでしょー」

 
ぶぅっと膨れながら、チョコケーキのような甘すぎるお菓子を3つも4つも口に詰め込む。
 
ブン太は床にしゃがみこんで、こっちを睨んでいる。

 
「お前そんなに食ったら太るだろぃ!いいのかよ」

 
「ブン太こそ62キロなんて重すぎでしょ!」

 
「俺は見た目には出てねえから大丈夫なんだよ」

 
勝ち誇ったようににやけるブン太。

 
「むかつくっ!あたしは見た目から太ってるって言いたいの?」

 
「別にそうは言ってねえだろぃ」
 
 
「そう聞こえる」

 
「悪い悪い、とりあえずなんでもいいから返せ!」

 
ブン太は突然立ち上がってあたしに飛びかかってきた。
 
 
「その適当な謝り方、幼馴染みじゃなかったら許してないからね」
 
 
「そりゃどうもー」
 
 
仕方なくなって、抵抗せずにお菓子を返してあげると、ブン太はまたそれに食い付いた。

 
そしてまた黙って食い続ける。
 
 
全く、乙女の恋心を理解できないのか。
 
 
そんなこと言っても、甘いお菓子に夢中なこいつは
 
あたしの甘い恋心には気付きもしてないんだけど。

 
「ブン太はさー世界で一番甘いものってなんだと思ってんの?」

 
「なんだそれ。砂糖とかだろぃ?
あ、そういえば前にテレビで世界一糖度が高いフルーツのことやってたな。それじゃね?」

 
いかにも適当に答える赤毛の少年にいっぱつかましたくなって。

 
「あたしはねえ!恋だと思うんだよねぇ・・・」

 
ベッドに腰かけて、足を組み換えてブン太を見つめる。
 
軽い色仕掛け。

 
「へえー・・・」

 
一瞬おどろいた表情をしたかと思うと、すぐに怪訝そうな表情になってまた黙々とお菓子を食べ始める。

 
「・・・効果なしか」

 
「ん?なんか言ったか?」
 
 
あまりにもあっけらかんとした表情にあたしはため息をついた。
 
こいつはきっと本当に世界で一番甘いものをお菓子だと思っているに違いない。
 
そんなやつはもういっそお菓子と結ばれればいい・・・
だなんて毒を吐いて1人で落ち込んでいる。
 
 
あほらしくなって立ち上がる。

 
「・・・どこ行くんだよ」

 
「ちょっとコンビニで口直しに辛いもんでも探してくる。部屋のもの探ったら殴るからね!」

 
なぜ辛いものかというと甘いものに対しての対抗心である。
 
全く、あたしもガキだ。
 
だけど、ガキである前に1人の女だということを忘れたくない。
 
 
このままこいつを好きでいたら、忘れてしまいそうだ。

 
 
そう言ってニコッと笑ってドアノブを握る。
 
 
 
すごく清々しい気持ち・・・・・・・・・のはずだった。

 
 
「ブン太」
 
 
「なんだよ」

 
「なにしてんの」
 
 
「抱き締めてる」
 
 
「ああそう・・・ってそういうことじゃなく」
 
 
「・・・悪かった」
 
 
後ろから抱き締められるという乙女の憧れが今現実になっている。
 
 
「何が?何に謝ってんの?」
 
 
いじけたように言うあたし。
 
 
幼馴染みというメッキが今剥がれる。
 
早とちりかもなんて考えない。

ちゃんとブン太の鼓動が早いことを背中に感じているからだ。

 
「色々・・・だよ」
 
 
「・・・わかったならいいよ・・・じゃあすぐ帰ってくるから」
 
 
そう言って離れようとした。
 
 
照れ隠しに。
 
 
「離せねぇ」
 
 
「なんで?」
 
 
「俺、まだ世界で一番甘いものもらってねえし」

 
「は・・・?お菓子ならさっきから死ぬほど食べてるじゃん」
 
 
「違うだろぃ・・・」
 
 
そう言ってブン太はあたしを自分と向かい合わせにした。
困ったような切ないような表情をしている。

 
「・・・ブン太がそんな顔することないじゃん・・・」
 
 
なんかこっちまで困っちゃうと言う前に、ブン太はあたしをきつく抱き締めた。

 
「世界一甘いものを・・・俺に下さい・・・」

 
わかってたんだ・・・そんな風にぼやきながらもちょっと笑いながら
 
 
「・・・しょうがないから、あげる」
 
 
と言っている自分がいた。

元々甘い甘いの味のするお互いの唇は、重なるたびに世界一甘いものになっていった。
 
この恋心も、重なる唇も、これからずっと2人だけの、
 
 
 
 
               世界で一番甘いもの。
 
 
 
 
 
 
 
 
―――END
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
初ブン太!!
ブン太かあいいよ…!(は)
ブン太は絶対ツンデレだと勝手な妄想を
繰り広げる今日この頃の良唯です。
読んでくださってありがとうございました^^
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あきゅろす。
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