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ダウト  (仁王)
「あんたなんて・・・」


「大嫌い、じゃろ?

もう何回も聞いとるし

そう何回も言われると・・・」



 
 
 
 
 
 
ダウト

 
 
 
 
 
 
 

最近いつもだ。



あたしがお昼に毎日使う生徒会室。

あたしは書記だから別にいけないことじゃないし、

 
親友の都はいつも彼氏とお弁当だから、
 
どうせ1人なら静かな所で食べたい。

 
うるさい所は苦手だ。

 
そういうわけで生徒会室で1人食事をとっている・・・

 
はずだった。


 
 
 
「どうしてあたしより先にここにいるかなぁ・・・」

 
「鍵開いとったから、いいと思ってな」

 
「あんたは生徒会でもなんでもないでしょ」

 
「うちの副部長が風紀委員長じゃ」
 
 
「それあんたに直接関係ないじゃん!」

 
見た目も言動も図々しい男、仁王雅治。

そいつが食べようとしていたメロンパンを、あたしはひょいと取り上げた。

 
「あんたの居場所はここじゃないでしょ」

 
「俺の居場所は俺が決めるんじゃから、いいじゃろ?」
 
 
思い切り見下したような微笑みを浮かべてあたしを見上げる。

 
「またそんな屁理屈!あんたなんか大っ嫌い!」

 
見下すのか見上げるのかどっちかにしてほしい。

 
「それとも俺がここを選ぶ理由を言った方がいいんか?」

 
 
 
そのニヤニヤした顔に、あたしは余計に苛立って。

 
 
 
「結構です!もう何回も聞いた!」

 
「俺はお前さんがちゃんとそれを理解するまで、言い続けるからの。覚悟しときんしゃい」

 
 
涼しい顔で重大なことを言い放つ。

 
 
その理由とやらを初めて聞いたのは、二週間前ぐらい。
 
仁王が初めてここに来たときだ。

初め、あたしはその存在自体を無視していた。

2年の時に同じクラスだったために顔見知りではあった。
 
何故ここにいるのか、何故図々しく生徒会長の椅子に座っているのか・・・
 
どうしてさっきからじろじろあたしを見るのか・・・
 
いろいろ気になることはあったけど、なんとなく口を開いてはいけない気がした。

 
 
だけどやっぱり、それを見越した仁王が口を開いた。
 
 
 
「俺が気にならんのか?」
 
 
会議用に出してある椅子に座っているあたしの正面の椅子に座る仁王。

睨もうと思って、ちょっと上目遣いになったあたしの目を覗き込む。

 
「・・・別に」
 
 
負けてはいけない、と気合いを入れて冷静を装う。

 
「・・・気にしてくれんと意味がないんじゃけど・・・」
 
 
ため息まじりにそう言う。
 
 
意味深な言葉が気になったけど、あたしはそのまま沈黙を貫いた。
 
 
「望月ー」
 
 
目を合わせてはいけないと思ってうつむきがちにちまちまとご飯を食べる。
 
 
「しゃあないのう・・・こんなやり方しとおなかったが・・・」
 
 
独り言のようにぼそぼそと言ったかと思うと、仁王の指があたしの顎をすっと持ち上げる。
 
 
 
そして顔を近付ける。
 
 
 
「ちょ、え、待って!わかったから!」
 
 
何がわかったのか自分でもわからなかったけど、焦る気持ちがあたしにそう言わせた。
 
 
顎から手が離れる。

 
そして仁王は妖しく微笑みながらこう言った。

 
 
 
 
「お前さんのことが・・・好きじゃ」

 
 
 


 
 
 
 
 
 
「じゃから俺はお前さんに会うためにここに来ることにしたんじゃ」

 
その後、楽しそうにそう付け足した。

正直意味がわからないし、信じる気にもならない。

仮にも詐欺師と呼ばれる男だ。
 
女との噂も絶えない。
 
あいにくあたしは、遊びで恋をしてられるほど暇ではない。
 
それに、不真面目に見える人間は嫌いだ。
 
だから生徒会なんて、はたから見ればめんどうな仕事も自分から率先してやっているのだ。
 
そんなこんなで無視し続け、大嫌いと言い続けて、今に至る。

相変わらず図々しく生徒会長の椅子に座っているそいつは、楽しそうな微笑みを浮かべている。

 
 
「・・・なんでそんな楽しそうなの?」
 
 
「愚問じゃのう。好きな女を見てて、ニヤけない男はおらんぜよ」
 
 
「またそんなこと・・・。あんたさあ・・・多分頭おかしいと思うよ」
 
 
あたしがピシャリとそう言い放つと、仁王はきょとんとする。

 
「あたしが好きなんて奴、めったにいないし」
 
 
性格や容姿にはもっぱら自信がないし、プライドが高いだけだ。
 
 
 
すると仁王はこっちに向かってきて、あたしの後に立った。
 
 
そしてそっと、あたしの肩を抱きしめた。
 
 
 
「ちょっとなにして・・・!」
 
 
「そんな意地っ張りなとこが可愛いと思う奴もいるんじゃよ」
 
 
「す、すぐそういうこと言う・・・だからあたしはあんたなんて・・・」
 
 
「大嫌い、じゃろ?」

 
 
 
 
"あんたなんて大嫌い"

 
 
 
 
今まで仁王に言い続けてきた言葉だからか、もう言うタイミングまで読まれている。

 
 
「もう何回も聞いとるし、そう何回も言われると、好きって言われとる気さえしてくるのう」

 
後ろから抱きしめられているから、お互い表情は見えない。
 
だが・・・仁王は間違いなく笑っている。
 
そしてこいつは・・・あたしの顔が真っ赤になって、心臓が高鳴って止まらないことに気づいているんだろう。

 
「そ、そんなわけないでしょ!自信過剰も大概にしたら・・・?
 
だからあんたなんか・・・大嫌いなんだってばっ・・・」

 
「・・・ダウト」

 
「・・・は?」

 
「じゃからダ・ウ・ト。それ、嘘じゃろ?
 
もう観念したらどうじゃ・・・自分ではわからんかもしれんけど、
 
お前さん・・・いつも"大嫌い"って言いながら
 
普段見せない笑顔になっちょるんじゃよ。
 
今なんか切ない顔しちょった・・・。
 
俺はそれをただの勘違いや自信過剰ですませられん。
 
期待してしまうんじゃ・・・。
 
違うなら、俺の気持ちを本気って理解してからもっぺん"大嫌い"っちゅーてくれ・・・」

 
 
 
"ダウト"




その言葉で何かが壊れた気がした。

ダウトは嘘が見破られた方が負けなゲーム。


そう、あたしはなんだかんだ言って・・・この2週間が楽しかった。

仁王に振り回されて、散々大嫌いと言っていた日々が愛しいと思っていたんだ。

現に今の今、ちょっと震えているあたしを抱きしめる腕が愛しい。

その暖かい冷たさが離れなければいいのにと思う。

仁王があたしを好きと言ってくれることが、まんざら悪い気もしないと思っているのだ。



「・・・あたし、めんどくさい女だよ。相当プライド高いし」


「ええよ。プライド高いくて強がりな女なんて新鮮じゃ・・・」


「強がりじゃないもん。本当に強いんだから」


「はいはい。俺にはそうは見えんがの?」


強がりさえ見破られてしまう。


くすくすと笑う仁王の息が耳にかかってくすぐったい。


「あたしと付き合ったからには、浮気は絶対にさせないからね!

束縛はめんどうだからするつもりないけど・・・。

一生を誓ってもらうことになるかもよ?」


あたしがそう言うと、仁王は目を丸くしてすぐに微笑み、


「お前さん、言ってることがめちゃくちゃじゃ。

だが、臨むところじゃ・・・俺は束縛もするし、絶対離さんよ」


と言った。




ダウトと言われて嘘が見破られる。


ゲームを終えたあたしたちはあまりにも甘い関係になっていて。



「椿、こっち向いて・・・」


「う、うん・・・」




初々しいキスをする。


もうこの唇から"大嫌い"という言葉は、きっと出てこないだろう。


出たとしてもすぐに見破られて、また"ダウト"と言われるに違いない。




そしてまた、あたしが負けるのだ。


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