もっと早く、気付けばよかった。 「好き」 レンに告げられ、戸惑いに視線を泳がせる。 レンにそんな気持ちを抱かれているとは全く知らなくて、まるで不意打ちを食らった気分だった。 俺に男を好きになる性癖はない。 それに、弟としてしか、レンのことを考えたことがない。 断ろう。 それが誠実だろう。 そう思って、目の前のレンに視線を戻す。 レンは緊張しているからか、ほんのりと頬を染め、目を潤ませて、腕と足を僅かに震わせていた。 その姿が視界に入った途端、俺に新たな考えが生まれた。 付き合ってみるだけでもいいか。 同性愛の曲を歌うときに参考になるかもしれない。 それに新しい世界を知れば、知っただけ歌い方の種類も増えるってマスターが言っていた。 俺はレンの告白に、頭を縦に振った。 レンは嬉しそうに笑って、泣いていた。 『歌唱力上げるために、レンを利用する』 それだけでも、残酷だ。 なのに俺はそう思う裏側に、少なからず性欲処理の相手にもなると考えていた。 ボーカロイドにも人並みの性欲は持つが、発散する相手はなかなか作れない。 そのため、大方のボーカロイドは一人で慰めることしかできないのだ。 俺はレンを抱きしめながら、口の端を上げた。 もちろんそれは、レンと付き合えて嬉しいからではない。 もっと酷くて、もっと愚かな理由。 今思えば、最低だったと思う。 だけどそのときの俺は、それが悪いことだと分からなかったのだ。 レン、本当にごめん。 いまさら謝っても仕方ないけど。 どんなに謝っても、足りないけど。 それでも、俺は懺悔する事しか出来ない。 「ごめん」 _ |