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REBORN夢
#03



今度は、静かな闇の中だった。
しかし空気は殺気でひどく乱れている。

リタは腰の両側に装備した短刀を両手に構えた。
右手に持った刃を素早く背後へ投げる。

 ドスッ

「ぐわぁああっ!!」

命中とともに倒れる獲物
リタは無言のまま目を閉じた。
左の方向から武器が振り下ろされる。
左手の刃でそれを弾き、敵の腹に鋭い蹴りを入れる。

「ぐはっ」
「死ねぇぇっ!!」

絶えず敵は闇から現れる。
だが気配は消していない。動きが丸分かりだ。
床にぎらりと光る自分の刃を見つけ、死体からずぶりと抜き取ると身を屈めて次の獲物へ突っ込んだ。金属のぶつかる鈍い音。
バタバタと倒れていく敵
両手に収めた刃を前方へ飛ばす。
敵の呻き叫ぶ声。

もう、いない。

生きた気配が消える。

その瞬間、闇が開けた。


緋色の絨毯
それに流れ染み込む別の緋

自分の周りに倒れた複数の死体
それらは全て黒を纏っていた。
自分と同じ紋章のコート。
敵ではないはずの証。

だが、そんなことは関係ない

今はただ、自分の体内に巡る血液の心地よさを、何よりも強く感じていた。

その場に広がる景色に静かに騒ぐ自分の血に心高鳴っていた。

自分の中に在る、知らぬ感覚に囚われていた。



絨毯の上に軋む足音
視線をゆっくり向けてみれば新たな闇が映る
同じ紋章と闇を肩に羽織り、羽根の特徴的な装飾品、左頬の傷
その冷血な瞳に映るは
返り血を浴びた虚ろな眼の少女。


「――――お前は悪魔だな。」


それは滅多に見ることのない彼の笑み

黒く冷たい、全てを突き放すような歪んだ笑み


「――――気づいてるか?……笑ってるぜ、お前」


深い闇の中に飲み込まれる

響き続ける笑い声












「―――――っ!!!  はぁっ……はっ……!」



時計を見れば午後九時過ぎ
部屋に戻りそのまま眠ってしまったらしい
三時間近く経っていた。

また、嫌な夢を見てしまった。
深呼吸をして鼓動を落ち着かせる。

立ち上がろうとすると、ドアのノックに動きが止まった。

「リタ様!いらっしゃいますか」

「……何?」

「ザンザス様がお呼びです。一時間後、部屋までお越しくださいとの事です」

「……わかったわ」

ドア越しに人の気配が消えていった。

ベッドから立ち上がると、机の上に置いた短刀の一つを鞘から抜いた。

窓からの月明かりに照らされ、刃は美しく光っている。

超直感ではなく、これは決意。
この刃が次に浴びるのは、主かその者の最も愛する汚れた血か。

刃を収め、コートを羽織り部屋を出た。





廊下を歩いていると、向こうに銀色の長髪を靡かせた青年の歩く後姿が見えた。

「スクアーロ」

呼び止めると彼は立ち止まり振り向いた。

「リタじゃねぇか。久しぶりだなぁ、元気にしてたかクソガキ」

口の悪さは変わらないが、彼には幼い頃から良くしてもらっている。

「今ヒマ?チェスでもしない?」
「チェスだぁ?…まぁいいぜ。久しぶりだな」

二人は談話室へ向かった。テーブルに向かい合い駒を並べるのは珍しいことではなかった。

「そういやお前とは今んとこ引き分けてたよなぁ」

「あー…そうだっけ?…じゃあさ、今日の一試合で決着つけようよ」

「あぁ?何で急に」

「聞いたよ、明日から日本なんでしょ?私も長期ここを離れるからさ。お互い負けたら次が気になるじゃん。」

事実、二人の勝負はいつも接戦で、スコアが引き分けになるまでお互い「もう一回」がいつまでも続く調子だった。


「ふん、いいぜ。長期任務か、何処だ?」

「色々かな。旅行気分で。」

「なんだぁそりゃ。ボスが十代目になろうとしてる、お前にとっても大事な時期じゃねぇか?」

「…ねぇスクアーロ。…兄様は何を考えてるの?」

直球な質問に彼は無言で駒を動かした。

「あなたなら知っているんじゃないの?」

「…お前こそ、直感でわかるだろ?」

「わからないから聞いてるのよ」

「……さぁな。」

スクアーロの眼が、仕事の色に変わった。

「あの男はお前と違って強欲だからな。事が順調に進まない場合は、待ちきれないってこともあるだろうな…」

そう言って口元に笑みを浮かべた。

「…ベル、マーモン、ルッスーリア、ゴーラ・モスカ、レヴィ…そしてあなたよ、スクアーロ」

駒を進めながらリタが言う。

「何が言いたい?」

「兄様が、私を守護者に選ばなかった一番の理由は何だと思う?」

実力で選ぶなら、すぐに満場一致で決定するだろう。
それは周りの人間が一番よく知っている。

「知るかよ」

「危険だからよ…裏切り者として。自分の計画を妨げるものとして、必ず私の存在があるからよ」

「ハッ。嫌がる仕事はやらせねぇってか?」

「あの人は私を殺すよ」

スクアーロの手が止まる。
灰色の瞳で、静かにリタを見据えた。
いつもは全くの別物と思っていた兄妹の眼光が、今僅かにも重なった気がした。

「情けなんてものは論外…邪魔なものは殺すだけよ」

「お前…わかってんのか?そんなことしたら、俺らまで敵に廻すことになるんだぜ」

「わかってるよ。それに、あの人が何しようと私の知ったことじゃないし、ボスに迷惑かけるつもりもない。ただ、見えないところで私が何しようが、それもあの人には関係ないでしょ?それだけは言わせてもらうわ」

「何を考えてる」

「恐い顔しないでよ」

今まで無表情で話を進めていたリタは笑って見せた。

「お前が小難しい話するからだろぉ」

スクアーロがふてくされたような顔をする。
張り詰めていた空気が何気なく解けた。

「チェックメイト。」

「!…あ"っ」

「私の勝ちだねスクアーロ♪」

リタはベルから習った意地悪い顔で笑った。

「っくしょー」

スクアーロは髪をかき上げる。

「そのうち落ち着いた時でいいから何かおごってね。」

「当分先になるだろうな。お前が忘れてる事を祈るぜぇ」

「安心して。私自分に都合の良いことは絶対忘れないから。」

そう言いながら立ち上がり伸びをするリタを、そういう奴だと思いながらスクアーロは呆れ見た。
いつだか逆の立場になった時、清々しいほど忘れて見せた彼女を思い出す。

「んじゃ、ありがとスクアーロ。日本満喫してきなよ。」

「おう、じゃあな」

今日までずっとその笑顔にごまかされてきた彼女の真意を、探らなければならない時が来たのかもしれない。いや、今だからこそ。しかし、そう思いながらもスクアーロにそんな気は起きなかった。

彼は空いた向かいの椅子と駒の並ぶボードに何故か居心地の悪い名残を感じて、リタが席を後にして程なく、全て片付け部屋に戻った。

明日から始まる、彼らの長い闘いの幕開けに備えて。




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あきゅろす。
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