PSYREN夢
瞳/グラナ
一回目は初めて会った時
弥勒にやられた右目を覗きこんできたその瞳
「……あー……ヒマだ。」
鈍い灰色の空をぼんやりと見つめていた。
視界にふわりとした影が映る。
空から、降ってきた。
いや、舞い降りてきた。
「あ、グラナ。」
「何してんだ?」
「暇だから空中散歩。ま、なんもない風景だけど」
名前が俺の側に歩み寄る。
胡座をかいている俺の目の前に屈んで、顔を覗き込んできた。
近距離で眼と眼が合って、ほんの少し、沈黙。
「……変わらないね。グラナは」
「?何が」
「瞳。」
立ち上がり自分の目を指差して微笑む。
「弥勒は変わっちゃった…なんだか遠くなった。ジュナスは比較的穏やかになったかな。普段から目つきは悪いけどね…こんなこと言ったら睨まれるなぁ」
俺は進歩がないってことか?と、内心哀しくなる。
「…ま、十年も経てば変わるだろ。世界も変わったしな」
「ね…変わっちゃった。グラナは私と初めて会った時覚えてる?」
「ああ…覚えてる」
初めて会った時
名前は面倒臭さそうに俺と弥勒を見比べて、弥勒には服を着ろと一喝、俺にはでかいからしゃがめと急かして怪我の手当てをした。
苦い顔で俺の右目を診る名前を、俺はおとなしく座り込んでただじぃと見つめていた。
同じだ。あの時と今この瞬間、違うのは、名前の背に青空が映えていたことくらい。
いい加減慣れ飽きた荒廃の中で、俺の目に映る名前の存在はいつだって鮮明だ。
「グラナはあの時と同じだよ。変わってない…きれいな瞳。」
「俺が?」
意外なことを言われたせいか何か不思議な感覚がして、俺は褒められたはずの目を丸くした。
「…そうか?」
「うん。好きだよ」
そう言われて心なしか上がる体温とは裏腹に、彼女に覚えたあの頃との変化。
「…お前は寂しそうだな」
「え」
考えるより先にぽろっと口から出てしまった言葉に、名前が少し驚いたような顔をしたから戸惑う。
「あ、いや、そんな気がしただけだ」
「……グラナがそう言うならそうなのかも。」
「俺の言うことだし気にすんな」
「またそんなこと言って…」
いつものように笑う彼女でも、やはりどこか寂しそうに見えた。
「まぁ悩みでもあれば聞くだけは聞いてやるけどな」
がはは、と笑ってみせると名前が何とも言えない表情で真っ直ぐ俺を見たから、思考が一瞬停止して、作った笑顔もどこかへ行ってしまった。
「――――……」
名前がまた目の前でかがんで、いちいち近いな、と思ったらそれ以上の距離
首に細い腕が回ってきて、名前は俺の胸に顔を埋めて、ぎゅうとくっついた。
「――名前…?」
「最近ね…なんか胸騒ぎがするんだ…」
予知能力こそないが、名前が妙に勘の強い奴だということを知っていた。
弥勒の事だろうか。それともミスラか。
「グラナは……そのままでいて。
…あまり遠くに行かないで…」
名前は泣きそうな声をしていて
彼女が初めて見せた、まだ残る人間らしい脆い部分を、腕の中に静かに感じた。
頭を撫でるように抱き寄せて頬に伝わる暖かさが心地よい。
「俺はどこにも行かねぇよ」
「…本当?」
「お前がそばにいてくれるなら」
「!…約束ね。」
顔をあげた名前と眼が合って、
何も感じない俺の心が穏やかになれる瞬間。
end.
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