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PSYREN夢
sweet?/弥勒


まぁた今日も来た。

どうやら彼は私を気に入ってくれたみたい。

あんなかわいい男の子に口説かれるなんて
普通なら喜んじゃうところだけど

彼が惚れてるらしいのは私自身じゃないからなぁ
使いあぐねていたこの妙な力を理解して求めてくれる存在が現れたことは嬉しい

でも

「今日は早いんだな」
誰もいないビルの屋上で、弥勒は寝転がり本に目を向けたまま言った。

「テスト週間だから早上がりにしてもらったの。そう!テスト週間なの!これから帰って勉強しないといけないの私は!」

「勉強は大変なのか?」

「大変だよ…数学とか英語とか…物理とか」

「で、色好い返事をくれる気になったか?」
やっと本を閉じて起き上がりこちらを見る。
にしてもイケメンだこと。綺麗な瞳してやがる。むかつく。


「ちょうど学校生活もバイトもいい感じに安定してきて、やっと平和で普通な感じになってきたところでさぁ…なんならもう少し早く来てほしかった」

「学校は楽しいか?」

「楽しくはないよ。とりあえず最近は平凡に過ごせてるからマシってだけ。」

弥勒の隣に座り、いつものように白い箱を出す。

「今日は閉店の残り物じゃなくて買ってきたから私のおごりー」

「にしても、女の子ってダイエットとか気にしてそんなに食べないって聞いたけど?」

「そういうのには『本気』か『余裕』が必要なの。今の私にはどっちもないの。」

「ふーん。で、協力する気になった?」

この一週間で何回聞いてきたか
まぁ、私を訪ねるにあたって彼にそれ以外の理由はない
生返事する彼をじとりと呆れ見ると、彼も似たようなむかつく顔をしてきた。
私は返事をごまかすようにプラスチックのフォークに一口のせたケーキを弥勒の口の前に持っていく。彼はむすりと黙ってから口を開けてそれを食べた。

「…甘い」
「ケーキだもん」
そのケーキとフォークを彼の手に押し付けて、自分の分を箱から引っ張り出す

お互い余計な会話もなくぼーっとマイペースに食べるだけ。

「……お茶は」

「ああ、忘れてた。はい」

世界滅ぼすとか言ってるやつが、こんなところでのん気なものだ。そう思ったけど、良くも悪くも今この時は私のせいか。なんだかなぁ。
でも、やっぱり弥勒とこうしていてみると心なしか落ち着く気がする。安心する。
一般と違う自分を隠す必要がないから、心に余裕ができる。その余裕の使い道を狂気に託そうとは思わないけど、興味と好奇心は確実に傾いている。



「……で、結局嫌だって言ったらどうすんの?」

「手荒な勧誘になるかもな」

「あらこわい」

断るという選択肢は与えられないらしい。
私は食べ終わった紙皿を置きお茶を口に運んで、ため息をつく。
もう少しで届きそうだった平穏と、在ることなら求めた非日常。どちらを選ぶか。
答えは出ているけど悩みたい。私にはそれすら安定を感じる。


「…俺はやっぱりこれが一番好きだな」

ぼんやりしていたらその言葉に呼ばれた。

「え?……ああ、ショートケーキね。人気だからなかなか売れ残らないよ。スタンダードだけど美味しいよね」

「へぇ。……さて、じゃあ俺はそろそろ行くよ。ごちそうさま」

弥勒はそう言って立ち上がる。
結局この子、毎度ケーキ食って帰るだけなんだよね。

「―――名前」

「、なに」
今日初めて名前を呼ばれた。少しときめいた。

「…次は買いに来るから、その時はよろしく」

微笑みを残して去る後姿を見送りながら、私は甘味で満たされた頭を働かせる。
よろしくとは何か。ああ、ついに判決の時か。
この日々が何気に一番楽しかったのに、残念。

明日か明後日か、彼がケーキを買いに来る。
外部から見れば私たちは、ただのバイト店員とお客さんなんだろうな。
彼女目当てに通い詰めた彼がその店員にする告白は、洋菓子のように甘いものではなく、無機質な血の味。




end.


11.06.01


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