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PSYREN夢
闇に浮かぶ花/遊坂






「――――なんでここにいる」

名前は何も言わずにヒールの音を響かせて歩いてくる。

幻かと思うほどこの場にはあまりにも異質で

「幽霊かもね」

その言葉を信じそうになる。

ある程度わかる距離まで来て、彼女は俺の血塗れの服に目を落とした。

「全部、貴方がやったの…?」

「ああ」

「どうして」

「…これが本当の俺だから。」

ばれた焦りも罰の悪さも感じずに、俺はためらうことなくそう言い放った。

近付こうとする彼女に凶器を突き出してそれを拒む。


「………あんまり驚かないんだな」

「これでも驚いてるよ」

「病人がこんな所で何してる」

「最近安定してるから…先生に頼んだら少しくらいなら家にいていいって」

「家じゃねぇよここは」

「あはは」

「それで、わざわざ悪化させるようなもん見に来たのか?」

名前はその辺に転がっている死体に視線を落としてから再度こちらを見た。

「…葵がここにいるような気がした。死期が近づいてからね、勘が妙に冴える気がするんだよね」

「それが特別なものだとしたらお前は俺等の仲間になれるかもな」

「いやよ、私群れるのきらい」

名前は興味なさそうに笑う。
何も叶わない事を二人とも分かってる
与えられた時間は、残り僅かなこの世界の寿命よりも少ない。

「……会いたかったんだよ。」

「おとなしくベッドで待ってれば俺から行ったのに」

「なんかその言い方やらしい」

「はっ。なんだよ、その気になるぞ」

「もう来る気なんかないくせに」

「お前が通報でもしなきゃいい話さ」

「こんなの関係なしに、今日がなかったら二度と会わなかったでしょ」

怒る様でもなく呆れる様でもなく優しめな口調で、ただ意思は感じた。俺に認めさせるための…

「……勘なら外れだ。見舞いなら明日にでも、時間があれば行くさ。今までだってそうしてきた。お前に会いに来る一時間前までこうして人間を殺していた時もある。お前がそれを知っちまっただけで、俺は何も変わらない」


とりあえずはき出したのは偽り


世界が終わるまで会うつもりはなかった。
理由に綺麗事を含めば「俺はまともじゃないから」で済むだろうが
だけど結局、今日まで忘れたことはなかった。

それに
こう見えてもお前に会う日だけは必ず、俺はまともな普通の人間でいた。


「…私だって、死ぬまで変わるつもりはないよ」

「お前は変わったぜ。昔はもっと弱かった」

「何よ、なかなか死なないって?」

「違ぇよ…強くなったって褒めてんだよ」

「……そうかな」

「ああ」

「………ねぇ、貴方は」

「?」

「――――っ……」
名前が急に胸を押さえて膝を崩した。

「……!」

その苦しそうに震える身体に触れていい自分は今ここにはいない。

こんな血に塗れた手で触れてはいけない


見せるつもりもなかったのに

お前がいけないんだ


床に手をついて痛みに耐える名前を俺はただ見つめた
腹の底が冷気に覆われたような感覚

「………もう応えてくれないんだね…」
震えた息で名前は笑った。
その悲しげな瞳から俺は目を背けた。


「……病院に戻れ」

「…嫌」

「薬があるだろ」

「………」

「なんで持ってない」

「……またお見舞い、きてくれる?」

「……ああ」

「…はっ……嘘だね…」

「戻れって言ってんだよ…!」

「…うるさい馬鹿」

発作が止んだ名前は呼吸を整えて立ち上がる。

また間もなく繰り返すはずの苦痛

いつ倒れても不思議じゃない程弱った身体

それでもしっかりとした足取りで俺のそばに歩み寄った。

「俺に触るな…。殺すぞ」

彼女はふわりと笑う。
その笑顔に一瞬見惚れて動けなくなる。

「殺して」

ぎゅうと抱きつかれて、白いワンピースが血まみれだな、とか呑気に思う。

甘い香りがする。
始めから気づいてたけど、髪を少し切ったんだな。
今日の名前は今までで一番綺麗で
いつかこうやって外で会える日が来ればいいと望んだ時もあった。



「葵に殺されるなら幸せだな」

「…発作より辛いぞ」

「いいよ。あと一度で済むなら」

「――疲れたのか?」

「……うん…そうだね」

「…俺のせいか」

「何言ってんの馬鹿。貴方にはすごく感謝してる」

「……どうせ近々世界は終わるんだぜ。
見届けなくていいのか?」

「…やっぱり優しいんだ、葵は」

迷いはなく、穏やかに委ねて
最期まで、俺の前では弱くないつもりか



「ねぇ……病弱な私の彼氏は辛かった?」



違ぇよ馬鹿

その逆だから辛いんだろ




「     」


耳元で一言囁くと、彼女は綺麗に笑ってくれた。


俺とお前は出会ってよかったのかな

こんな世の中じゃなかったら、少しはお前を幸せにできたかもな

なんて、俺とは思えないな。



最後のキスをして、抱きしめて、感染。





end.


―――――――――――


遊坂さんがヒャッハーなる前から付き合ってた、身体の弱い彼女っていう。

遊坂さんて理性と本能が紙一重な感じがする。



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