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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第五夜 再び一番街へ〜百鬼と神将を率いて〜
(昌彰君は必ず二人を助けると言った…このままボクが何もしなくても、さっきの式神を使って二人を助け出すだろう…)

リクオは白虎と名乗る昌彰の式神によって奴良組本家に帰ってきていた。

(でも…あの二人がさらわれたのはボクのせいだ…このまま何もしないなんてことはできない…それに…)

リクオは屋敷の縁側に座った。もう食事時は過ぎたのだろう。だいぶ静かだ…

(あの時の…)

リクオは昌彰と公園で対峙した時の事を思い出していた。

「若! どちらに行かれてたのですか!?」

氷麗がいち早く駆けよって来るがリクオは思考に没頭していて気付かない。

(あの二人を助けるには…みんなを…百鬼を動かすしかない…)

「若! リクオ様!!」

「え、あ? 氷麗?」

「もう、いくら呼んでも返事をしないんですもん…目を開けたまま寝てるのかと思いましたよ?」

「あ、ああ…ゴメン氷麗。ちょっと考え事してて…それよりじいちゃんは?」

リクオはずっと氷麗に謝りながらも祖父の姿を探した。

「おう、リクオ。話がある、来い」

「じいちゃん」

ぬらりひょんは座敷に入ると側に控えていた猫の妖怪を残して他の妖怪を閉めだした。

「じいちゃん…「旧鼠か…リクオ」!? なんで知って…」

リクオがゆら達を救うために百鬼を動かそうとしているのを読むかの如く、ぬらりひょんは旧鼠の名を出した。

「良太猫からの報告じゃ」

リクオの後ろに控えていた三毛猫の妖怪−猫又が前に進み出る。

「お初にお目にかかりますリクオ様。奴良組系『化猫組』当主 良太猫でございます」

良太猫はそう言って頭を下げた。

「まず最初に謝らせて下せぇ、若」

「どういうこと?」

「実は…一番街を総大将から預かってんのはワシらなんですわ」

化猫組は奴良組がこの地に本拠を構える前から一番街で博徒として悪行を積んできた古い妖怪である。

奴良組がこの地に来てからは配下として街の支配権を与えられた。それ以来、賭場として規範を守り、奴良組の畏の代紋を守って場を構えてきた。だが…

「あの街は今、ドブネズミに支配されちまってんですよぉ!」

そう言って良太猫は堪え切れずに拳を畳に叩きつけた。

旧鼠たちは現れたと思ったら瞬く間にその勢いで街を変えてしまった。武闘派ではない化猫組は必死の抵抗も空しく、街を追われる形となった。

「あいつらを野放しにしておいたらどんなことになるか…そう思って本家に助勢を願おうとしていたんですが…その矢先に…」

もちろん化猫組も何の手も打たなかった訳ではない。旧鼠たちの根城となったホストクラブに監視を置き、本家に応援を願い出ようとした。

その監視役からゆらとカナが拉致されたとの連絡が入り、急ぎ本家へ馳せ参じた訳である。

「奪われた身でこんなことを言うのは厚かましいかもしれません。でも若、御友人を助けるついででも構わねぇ!どうか、あの街を救って下せぇ!!」

血を吐くような良太猫の懇願。リクオは静かにそれを見ていた。

「リクオ、これは組の問題だ。シマでおさまりのきかねぇただの暴徒をのさばらせるわけにはいかん。…だが、お前の問題でもある。ケジメをつけて来い!」

「じいちゃん…… 鴉天狗、皆を集めてくれ」

まだどこか頼りないが、その言葉にはしっかりとした意思が感じ取れた。

「行かれるのですか。リクオ様」

「うん。きちんと…ケリをつける」

――――

「出入り?!」

「じゃあ、あの女を…助けるってことですか?!」

「お願いだ。みんな力を貸してくれ!」

そう叫んでリクオは集まったみんなに頭を下げた。これに慌てたのは集まった妖怪たち、特に側近として仕えている者たちだ。

「若、頭をあげてください!リクオ様が行くというのならこの青田坊、どこへなりともお供しますぞ」

最初に青田坊が名乗りを上げる。

「お前だけではないぞ、青!若、この黒田坊も参りますぞ!」

負けじと黒田坊も続いた。

「頼む。青、黒…」

「俺たちも行きますぜ!若!」

小鬼や納豆小僧も声をあげる。氷麗や首無は静かに頷いてついていくことを示した。

「ありがとう…皆…(けど…これじゃダメなんだ…)」

ついてきてくれると言ったのはほんの一部。いつも身近にいたりお供として付いてくれたことのある者だけだ。

残りの者達は陰陽師を助けに行くということかなりの難色を示している。

(せめて、今だけでも力があれば…旧鼠を倒す力…百鬼を従えられる力が…)

ドクンッ

『力がほしいか?』

「え?」

リクオは自分の中で何かが蠢くのを感じた。

『力ならお前はすでに持っている』

「ど、どういうこと?」

その声にリクオは庭のしだれ桜を振り仰ぐ。

『本当は知っているはずだぜ?自分の本当の力を』

リクオが見たのは先頃の夢に出てきた人物−闇夜に生きるもう一人の自分。

『もう 時間だよ』

そして昼と夜が入れ替わった…

「おまえら…」

昼の姿とは打って変わったリクオに先程まで喚いていた妖怪たちも静まる。

「うだうだうるせぇよ…陰陽師だから?それがどうした?天敵に貸し作るのも…悪くねぇぜ」

夜のリクオが纏うのは確かに百鬼の主たる畏。その場に集う全ての妖怪はそれを理解した。

「行くぞお前ら…夜明けまでのねずみ狩りだ」

††††

「…ん…うん…」

ゆらは頬に当たる木屑のような感触で目を覚ました。

「な…ここは…!?」

慌てて周りを見回すと金属の格子に覆われていた。まるで檻のように…

(いや、これは檻というより…カゴや…)

みれば壁の一面には回し車があった。ちょうどハムスターを飼うようなカゴだ。

「うん…」

「家長さん!?」

一緒に閉じ込められていたであろうカナもようやく目を覚ましたようだ。

「こ…このカゴは一体…」

それに外?と呟くゆらに檻の外から声がかかった。

「よう、陰陽少女」

ゆらがそちらを見ると旧鼠が悪趣味で派手な椅子に座っていた。

「どうだ…?ネオンの光の中…処刑される気分は…?」

「な…処刑…?(あれからどれくらいたったんや?…禄存は?)」

星の位置からみておそらく夜明け前。

「そうだ…あの三代目のガキが約束を破ったらな…」

旧鼠配下の取り巻きたちがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

「三代目…?何のことや…?旧鼠…!アホなことはやめるんや!!ええかげんにしい!!」

ゆらは格子を掴んで叫んだ。

そんなゆらを旧鼠は無言で睨みつけた。

「おい女…その名で呼ぶなや。この街ではな…」

配下の一人がゆらの胸ぐらを掴みあげる。

「星矢さんって呼べや―――!!!」

ビリィッ

そのまま制服の胸元を引きちぎられた。

「な…」「ゆらちゃん…」

ゆらは咄嗟に崩れ落ちた。

「式神もってないてめーはただの女だよ」

その様子を取り巻き達は嘲笑する。

「さて…そろそろ時間だな。ま…来ないなら来ないで俺はかまわんがな…」

旧鼠は腕に巻いている時計を見ながらそう言った。

「知ってるか…?人間の血はなぁ…夜明け前の血が一番ドロッとしててうめぇのよ」

ちょうど今くらいのな…という旧鼠の言葉と同時にカゴの中へ取り巻きのネズミどもが入って来る。

「ひっ…」「いやっ…」

ゆらとカナは必死でそいつらから距離をとる。

(…こ、これが妖怪…こん前の付喪神なんかとちゃう…)

「へへ…オレこっちが好みだな〜」

ホストの姿をしたネズミ妖怪の下品な笑いが響く。

(倒さな…私は陰陽師なんやから…)

ゆらは必死で己を叱咤した。しかし、身体はネズミから離れようと後ずさる。

その様子を見て、旧鼠の冷ややかな笑みがゆらを射ぬいた。

(式神さえあれば…こんな奴ら…)

追い詰められたゆらの目に涙がにじんだ。

「いやぁぁああ…(誰か… 助けて… お兄ちゃん…昌彰!)」

モァ…

突如として、空気に濃密な妖気が混じり、霞みが一番街を覆った。

「ん…」

「なんだ…?ありゃ…」

その異変に気付いた旧鼠と配下の妖怪たちは動きを止める。

霞みを切り裂き、現れたのは妖怪の群れ−百鬼夜行。

その先頭を歩くのは着流しに羽織を纏ったぬらりひょんの孫−リクオだ。

「星矢さん!!こ、これは!?」「化猫組の奴らがいますぜ!!」

その圧倒的威圧感に動くことができなかったネズミたちが慌てて動き出す。

「化猫組よ…あいつらか?」

首無が良太猫に訊ねる。

「あぁ…憎い…ねずみどもだ」

††††

「うそ…(なんで…百鬼…夜行? まさか…じゃあ…あの男が…妖怪の…総大将?)」

ゆらの戸惑いに関わりなく、話が進んで行く。

「またせたな…ねずみども…」

「何者だぁ!?テメー」「本家の奴らだな…三代目はどーした!?」

リクオの台詞にねずみ達が喚きだす。

「(若、この隙に御友人たちを…)」

首無がさりげなくリクオに囁いた。

「(いや、余計な世話だ)」「(若!?)」

首無は驚くが、リクオはどこかに昌彰がいることを確信していた。

自分が来るのを待っていたのだと。

「(いいから見ていろ。首無…お前女に甘いな)」

「(…わかりました)」

首無は納得してはいないようだがリクオの口ぶりから何かしら感じ取ったのであろう。素直に引き下がった。

「いや…あんなガキはどーでもいい…」

旧鼠は覚醒したリクオに気付いていない。

「宣言はちゃんとしたんだろうな?『三代目を継がない』と!」

「黙りな。おまえごときに言われる筋合いはない」

リクオは旧鼠の言葉を一刀のもとに切り捨てた。

「…ならば約束通り殺すまでよ!」

一瞬旧鼠は何を言われたかわからないような顔をしていたが、そう言ってカゴを叩く。

「さぁ、できるかな?」

その行動をリクオは馬鹿にしたように笑った。

「なに?」

ギンッ!

旧鼠が疑問の声を発するうちにカゴの一角が綺麗に両断された。

「遅くなってすまない。ゆら…それと家長も」

カゴを切り裂いたのは六合の銀槍による一閃。切り開かれたカゴから昌彰はゆらとカナを連れ出した。

「お兄ちゃん!」

ゆらは思わず昌彰に飛びついていた。

「っと…怖かったか、ゆら?」

フルフルとゆらは首を振る。

「へ、平気や!(信じとったもん…昌彰兄ちゃんが助けに来てくれるって)」

その様子を微笑ましげに見ていたリクオは旧鼠に向き直った。

「どうする夜の帝王。人質はもういないぜ?」

昌彰達の方には六合と青龍が顕現し、三人を守護するために佇んでいる。

「旧鼠とかいったな。我が妹が世話になったようだ…」

そう言いながら昌彰も前に進み出る。

「青龍、六合。向かってくるねずみだけを相手にしろ。下手に前に出るな」

『承知』『御意』

昌彰の命令に青龍は徒手のまま、六合は再び銀槍を構えて応じた。

「陰陽師、安藤家の名において…旧鼠よ。汝を滅する!」

昌彰は袖から呪符を取り出し、刀印を結んだ。

―――

「陰陽師だと!?」「若!大丈夫なんですかい!?」

昌彰の登場にリクオの百鬼夜行に動揺が走る。

「何ビビってやがる?あいつも標的は旧鼠だ…なら利用してやれ」

リクオの言葉でまだ完全ではないが百鬼夜行の混乱は最小限に収まった。

リクオは疑っていなかった先日の誓いを。昌彰の言葉を。

―――

「陰陽師だと!?(聞いてねえぞ!そんな話…)」

旧鼠たちも同様に混乱の最中にいた。既に人質は奪還され、自分達の優位は失われつつある。

しかも前方には百鬼夜行、後方には式神二体を従えた陰陽師…退路は既に無い。

「くそっ!てめぇら皆殺しだ!陰陽師もろとも喰いつくしちまえ!」

その言葉が開戦の合図となった。

††††

うおああぁおぁ!!

まさに人外の奇声を発しながら百鬼夜行とねずみ妖怪の集団がぶつかりあう。

ズガッ バキッ ズシャッ

骨を砕き、肉を切り裂く音。罵声と怒声、絶叫と嘲笑が響き渡る。

昌彰の視界の隅に先日リクオと共にいた鉄紺色の法衣を纏った青田坊と漆黒の法衣を纏い、笠をかぶった僧の二人が奮戦している様が映った。

無数の槍が、剣が、刀が、錫杖が、剣戟が舞う。

拳がネズミを砕き、潰し、薙ぎ払う。

「やれやれ、この前は随分と手加減してくれていたんだな…」

その無双ぶりを見ていた昌彰は最初に相対した時、青田坊が加減をしてくれていたのだと感じて思わず溜息を漏らした。

その隙に正面からネズミが飛びかかる。

「っと!『百鬼破刃』!」

向かってきたねずみは昌彰が放った氷の刃に貫かれた。

昌彰は気付かなかったが、その様子をみて氷麗は人知れず安堵の息を漏らした。最初に見せた炎はそれなりの恐怖を氷麗に与えていたらしい。

「呪いの吹雪 雪化粧!」

氷の息吹で以ってネズミを凍てつかせ、木っ端みじんに打ち砕く。

ザシュッ

六合は銀槍で、

『剛砕破!』

青龍は神気を叩きつけて昌彰とゆら、カナに近づいてくるネズミを片っ端から切り裂き、粉砕していった。

††††

「なんで…」

旧鼠は既に追い詰められていた。物理的にも、精神的にも。

「てめーら誰の命令で動いてやがる!百鬼夜行は主にしか動かせねーんじゃ…(それに陰陽師だと…!?あの方からは何も…)」

パニックになっていて旧鼠の思考は正常に働いていない。

「何言ってんだ。目の前にいるじゃねーか」

その様子を良太猫は蔑むように睨みつけた。

「この人こそが!ぬらりひょんの孫!!妖怪の総大将になるお方だ!!」

良太猫は誇りを持って叫ぶ。リクオこそがこの百鬼夜行の主であると。

「そいつが…あのガキの覚醒した…姿…!?」

歯牙にもかけなかった甘ちゃんのガキ。そいつが覚醒して目の前にいる。百鬼夜行を引き連れて。

「やっぱり…あんとき殺しときゃよかったじゃねーか!」

絶叫と共に旧鼠が本性を現す。鋭い牙と爪を有した巨大なネズミ。先程までの配下と比べれば体格は二周りほど大きい。

「追い詰められて牙を出したか…だが」

リクオは酒を湛えた深紅の杯に息を吹きかける。

「たいした牙じゃないようだ」

その言葉と同時に旧鼠の身体を青い炎が覆った。

「ガッ…」

旧鼠はその身を焦がす灼熱の炎に耐えきれず身をよじる。

「てめぇらが向けた牙の先…本当に闇の王になりてぇんなら…歯牙にかけちゃならねぇ奴らだよ」

(馬鹿な…四分の三は人間のこいつに俺が負けるはずが…)

旧鼠は死力を振り絞り、この場から逃れようと比較的に破りやすいと思われる人数の少ない方…昌彰達の方へと走り出そうとした。

「『その行く先は我知らず 足を止めよ アビラウンケン』!」

その呪文と共に旧鼠は自分の体が硬直するのを感じた。

「逃がすとでも思ったか?」

昌彰は静かな笑みを口元に湛えて言った。

「ふ…おめぇらは俺の“下”にいる資格もねぇ…奥義・明鏡止水“桜”」

リクオの言葉と共に炎が勢いを増した。

「『必神火帝、万魔拱服』!」

昌彰も魔を滅する炎を放ち、二つの炎が溶けあった。

「「夜明けと共に塵となれ」」

リクオと昌彰の炎は全てを、灰すらも残さず焼き尽くした。

††††

夜が明け、ゆらとカナは一番街の端の広場にいた。
カナはどこか嬉しそうに、ゆらは自分の無力さに打ちひしがれるように。

―――

「終わったな…帰るぞ」

旧鼠の消滅を見届けて、リクオは踵を返した。

「ま…待てぇ!」

ゆらは思わず目の前の妖怪に声をかけていた。

「お前が妖怪の主か!!」

ゆらの問いにリクオは静かな視線を向ける。

「お前を倒しに来たんや!!次に会うときは絶対…「ゆら、待て」お兄ちゃん!?」

ゆらが絶対に倒すと宣言しようとしたところを昌彰が割って入った。

「まずは礼を言わせてもらおう…ありがとう「お兄ちゃん!?何を…」」

昌彰の言葉にゆらは驚愕した。

「珍しいな。陰陽師が妖怪を見逃すか?」

リクオはいたずらっぽく笑いながら言った。

「人を助けに来る妖怪に言われたくないな」

昌彰も笑ってそれに答える。

「ふっ…精々気をつけて帰れ。そいつらの面倒はお前に任せた」

そう言ってリクオは闇へと消えた。

―――

「ほい、二人とも。一晩中何も食べてないだろ?」

そんな二人に昌彰はコンビニの袋を差し出した。

「あ、ありがとうお兄ちゃん」「ありがとうございます」

中にはお茶のペットボトルとおにぎりが数種類。味気ないが空腹の二人は文句も言わずに瞬く間に胃に収めた。

「ふ〜、ごちそうさまでした昌彰さん」「…ごちそうさまでした」

カナはあんな事があった後にも関わらず元気そうに、ゆらはやはりどこか思いつめたように言う。

「カナちゃん、家の人も心配するだろうから早く戻った方がいい」

「あ、はい。それじゃ、また学校で」

昌彰はゆらが落ち込んでいるのを見てカナを先に帰らせた。

「天后、念のため警護を」

『かしこまりました』

天后を念のために護衛に回しておくことも忘れない。

そうして昌彰はゆらの隣に腰を下ろした。

「どうした…ゆら」

静かに肩に頭をもたれかけさせながら昌彰は声をかけた。

ピクリと六合の霊布をかけた肩が震える。

「…ごめんな。お兄ちゃん…」

ゆらは蚊の鳴くような声で漏らした。

「どうして謝る…」

「私、何もでけへんかった…陰陽師なのに…」

ゆらは自信をなくしていた。陰陽師であるのに妖怪に助けられた。もちろん昌彰にも助けられた。そのことがゆらの肩に重くのしかかっていた。

「謝るのは俺の方だ…(いくら安全がある程度保障されているとはいえ…人質として放っておいたんだからな…)」

昌彰は俯いているゆらの頭を撫でながら言った。

「あまり自分を責めるな。お前がいなかったら家長が一人で苦しむことになったかもしれないんだぞ?」

その言葉にゆらはゆっくりと顔をあげた。

「お前の存在が家長を救ったかもしれないんだ。お前はよくやったよ」

「お兄ちゃん…」

ポンポンと背中を撫でられて、ゆらは安心したように眠りに落ちていった。


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