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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第四十六夜 闇に立つ金色の…
第三の封印・鹿金寺

「さぁ、今宵はこの寺に似合う派手な余興を見せておくれ」

 金色に輝くその寺を眼下に収め、羽衣狐は己の百鬼を従えて空を駆ける。

 一部を忌々しき中年の陰陽師に奪い去られたものの未だに膨大な数の妖がその背に従っていた。

 しかし…轟音とともに立ちはだかった金色の壁がその背と配下を隔てた。

 運悪く壁へと呑みこまれた妖が断末魔の絶叫を上げて消えていく。

「孤立したな羽衣狐…」

 正面に立ち塞がるのは若き三人の陰陽師。花開院家が誇る分家の三強。

「今宵この場所で再び闇に沈め古狐…」

 それに対し羽衣狐は冷笑を以って応じる。

「金色の墓標、洒落はきいておるが…そこに入るのは陰陽師じゃ…」

 金色の壁―福寿流の洛中洛外全方位金屏風が屹立し、天を覆い尽くす。これで完全に羽衣狐の退路は断たれた。

「行け! 強毛裸丸!」

 破戸の式神、一つ目の巨人の式神がその両手で羽衣狐を捕らえた。そのまま圧殺せんと巨躯に違わぬ怪力で押しつぶしにかかる。

 だがその程度で倒せる羽衣狐ではない。縦横無尽に振るわれる九尾が強毛裸丸の両手を瞬く間に切り刻む。

 その様子に破戸は焦ることなく笑みを漏らす。切断された腕から呪言が噴き出し、縛鎖となって羽衣狐の動きを拘束した。

「四百年前…我らは安藤家と共にお前を封じた。式神破軍と十二神将、そして妖刀祢々切丸によって」

 秋房は静かに前に進み出る。

「生憎と現代の安藤家はこの地に不在だが京の守護を託された我々はその時より研鑽を積んでいる」

 抜き放たれるのは幣をつけた異形の大槍、妖槍“騎億”。

「ほう、それはぜひ見てみたいのう…」

 最強の結界、最強の式神、そして最強の妖刀。秋房たちの誇るそれらを前にして羽衣狐は余裕の笑みをこぼした。

 あまりの事に絶句する三人。しかし、その表情は即座に驚愕に彩られた。

 金屏風を貫いて現れた巨大な骨。それは第四の封印に封じられていたがしゃどくろ。

 羽衣狐が制止の声をかけるが、がしゃどくろは金屏風を突破し、引き千切る。

 それと同時に羽衣狐の九尾が動いた。目にもとまらぬ速さで呪言の鎖を振りほどくと、その源である強毛裸丸を消し飛ばす。

 自由の身となった羽衣狐の背後にがしゃどくろが姿を現す。それは即ち百鬼と主の合流を示していて…

「ぐぅっ…」

 雅次は自身の術を破られた反動に苦悶の声を漏らした。

「どうする秋房…」

 破戸も額に汗を浮かべて体勢を立て直す。

 防御専門の雅次も式神特化の破戸もその最強の手札を無効化された以上…

「…うろたえるな。私が攻撃する、お前たちはサポートにまわれ」

 秋房は微かな逡巡の末に二人に告げた。

(妖槍・騎億は不敗の槍。たとえ私一人であろうと…)

 秋房の周囲に呪力が吹き荒れる。それは騎億を介して秋房の身を変貌せしめる。

 八十流陰陽術・憑鬼槍。それは式神を武器や体内に取り込み爆発的に攻撃力を上昇させる秘術。

「続け…いくぞ」

 秋房は一直線に羽衣狐を目指して駆け抜ける。

 幾多の妖が壁となって立ち塞がるが…

「邪魔だ!」

 秋房の憑鬼槍の前に鎧袖一触で弾け飛ぶ。それほどまでの威力。

 しかし、それを目にしてなお羽衣狐は笑っていた。

 無言で秋房と羽衣狐の間に立ち塞がるのは黒い神父服を纏い十字架を下げた青年―しょうけら。

 立ち塞がった相手の力量を即座に推し量った秋房は一度距離を作るため後ろに下がった。

「はっ、ビビってんのか?」

 そこに二振りの刃を携えて挑みかかってくるのは茨木童子。だが、その目前に水の壁が立ち塞がる。

「二対一は卑怯じゃないかな」

 眼鏡を直しながら雅次は刀印を構えた。

「秋房、こいつはこっちで引き受ける」

 余裕を含んだその様子に茨木童子の直感が警鐘を鳴らす。

「!?」

 咄嗟に飛びのいたその場に円錐状の結界が屹立した。

「行け!」

 茨木童子が退いた先に小さな水の鳥が殺到する。破戸の操る即席の式神だ。

「ちっ…鬼太鼓!」

 刃が宙を薙いだ軌跡から雷撃が迸る。例え即席だとしてもまともに食らえばダメージは必至。

放たれた雷撃は過たずに飛翔する鳥を撃ち落とす。しかし、その数は鳥に比べて些か少ない。

 距離をとろうにも背後には既に雅次の結界が立ち塞がっている。故に茨木童子に残された選択肢は再び鬼太鼓を放つこと。

 だが…

「待ってました!」

 水の鳥の合間を縫って、紅の炎を撒き散らし飛来する炎蛇が鬼太鼓の雷撃を呑みこんだ。

††††

(………)

 羽衣狐は顔に微かに険を滲ませ、眼の前の戦場を睨んだ。

 結界の残滓に囲まれた鹿金寺の池には多数の妖怪の亡骸が転がっていた。

(なかなかにやりおる…)

 しょうけらの十字槍と秋房の騎億が打ち合う。呪力と妖気、似て非なる力同士の衝突は激しい風圧を巻き起こした。

「だがそれもここまでじゃ」

 拮抗していた力が崩れる。秋房は咄嗟に騎億を盾にすることにより直撃こそ防いだが、その力に大きく後ろに押し下げられた。

「くっ…」

 秋房は堪え切れずに片膝を折る。回避できずに刻まれた無数の裂傷が秋房に苦痛の呻きを漏らさせた。

「秋房…」

 雅次がカバーに入るがその雅次も既に限界を迎えようとしていた。秋房への援護と破戸との連携、そして全体への守り。それを一手に引き受けていたのだから無理もない。

―――

「どうした? これで終いか?」

 放たれた水の鳥を切り捨てながら茨木童子は対峙している破戸を嘲笑う。いくらか衣を切り裂かれ、焼け焦げたりもしているが致命傷には程遠い。

「なんのぉ…」

 それに対して破戸は既に限界を迎えようとしていた。もとより複数の式神を同時に扱うのは消耗が著しい。

 再び炎の蛇が飛翔する。その数八匹、しかしそれは最初の半分にも満たない。

「八卦か…」

 茨木童子はすぅと目を細めて破戸の式神を構築する術式を看破した。

 八卦―万物を司る太極より両儀、四象を経て生じる事象を顕わす八つの卦。破戸はそれを利用し、消耗を最低限に抑えて多数の式神を操っていたのだ。

「行け!」

 鬼太鼓の雷鳴の矢と炎蛇がぶつかり合う。しかし八匹の炎蛇に対し、放たれた雷鳴の矢は二振りの十六。

 抑えきれなかった矢は破戸へと直撃する。

「が…ぁっ!!」

 ありえないほどの衝撃が破戸の神経を灼く。徒人ならば気を失っても、いや、命を失ってもおかしくないほどの一撃。

「っ!?」

 茨木童子は驚愕に目を見開いた。目前に迫るのは紅の蛇。

 雷鳴の矢を喰らい、肥大化した炎蛇が茨木童子を襲う。まだ術者たる破戸は意識を失っていなかったのだ。

 右の一刀で二匹の炎蛇を掻き消し、左の一刀は一匹を斬り伏せる。返す刀が四、五匹目を切り裂くと同時に残された三匹が茨木童子の身体を焦がした。

 一匹は刃を持った左腕を、一匹は振りあげた状態だった右肩を。そして残りの一匹は顔の片側を覆う卒塔婆を。

 肉が焦げる嫌なにおいが周囲を満たす。茨木童子は妖気を爆発させることで炎を掻き消したが、その瞳は憤怒に燃えていた。

―――

(まずいな…)

 雅次は必死に頭を巡らせた。こちらの切り札は既に敗れ、攻撃の要たる秋房は限界に近い。
 
 破戸も未だ意識こそあるがこれ以上の戦闘は不可能だ。

「くっ…退くぞ秋房! 破戸!」

 この場での戦闘にこれ以上執着する意味はない。雅次は残された力をかき集め、結界を張る。それは五重の結界となって京妖怪と秋房達を隔てた。

 破戸が解き放つは漆黒の翼を広げた大鴉。移動の足として使用している式神だ。

「秋房! 退くぞ!」

雅次が呼びかけるが秋房はこちらを見ることは無かった。

「秋ふ…「雅次、破戸お前たちは退け」…何を…!?」

 五重の結界が音を立てて砕け散る。問答をしている時間は無い。

「私が…やらねばならんのだ…」

(まずい…)

 秋房の使用した禁術は心身の消耗が尋常ではない。下手をすればそのまま禁術に呑まれる。今の秋房はその瀬戸際にいた。

「破戸!」

 雅次の声に破戸は大鴉を羽ばたかせる。耳を劈く絶叫がその嘴から放たれた。

††††
あとがき劇場

琥珀「更新しました!」
昌彰「中間試験は終わったのか?」
琥珀「いや、来週と再来週に一科目ずつ、来月に三科目残ってる」
昌彰「? じゃあなんで…」
琥珀「いや〜実習のレポートを書いてる合間にもちょいちょい書いてたら何時の間にやら…」
昌彰「…そのレポートは大丈夫なんだろうな?」
琥珀「大丈夫だよ。提出は再来週(試験と同じ日)だから… 教授! もうちょい考えて日程組め!」
昌彰「なんというか、まぁ頑張れ。んじゃ今回の話に行ってみようか?」
琥珀「だね。前回言った通り鹿金寺戦になりました」
昌彰「雅次さんと破戸さんよりだな?」
琥珀「うん。次いつ出せるか分からないから今のうちに活躍させておこうかと」
昌彰「なんか雅次さんの戦い方がどっかで見たことあるような…」
琥珀「あはは…某結◯師がモデルです。結界のエキスパートと言うと浮かぶのがそれだった」
昌彰「破戸さんの方は?」
琥珀「一応モデルはレンマギの猫屋敷さんだね。四神じゃなく八卦に変えてるけど」
昌彰「今回の解説はこんなところかな?」
琥珀「だね。さてレポートをやるか…」
昌彰「なんか本気で忙しそうだな。それでは皆様また次の更新でお会いしましょう!」

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あきゅろす。
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