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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第二十九夜 白昼夜 〜交差する探偵と魔術師と陰陽師〜G
(くっ…これじゃあ手が出せない…)

零牙は美雪の状態を見て歯がみした。

本来なら龍之介にかけられていたはずの祟りが、美雪が受けたことにより変質してしまっているのだ。

「ミユっ!頼む、目を開けてくれ…」

龍之介も美雪をかき抱いて呼びかけるが美雪は微かに呻くだけで反応がない。

「マズイわね…」

保健医でもあるあざみ先生が焦ったように呟いた。

美雪の呼吸は荒く、顔色も蒼白と言った状況だ。

「お兄ちゃん、どうにかならへんの?」

そう言ってゆらは昌彰を見上げる。ゆらの術も戦闘に特化しておりこの状況では為す術がないのだ。

「くっ…(考えろ…何か手はあるはずだ…)」

昌彰は打開策はないかと必死に思考を巡らせる。

鬼女が消えたのは昌彰の祈念の詞《ことば》を受けたためであって、怒りが鎮まったわけではない。

そもそもそんな簡単に神の祟りを鎮めることができるなら苦労はないのだ。

しかも美雪にかけられた祟りは、本来龍之介が受けるはずだったもの。それを美雪が肩代わりしたために解呪するには完全に神の怒りを鎮めるしかない。

「せめて本来の対象にかけられたものならどうにかなるんだが…」

「昌彰さん…リュウに戻せば…確実に解呪出来ますか?」

昌彰の呟きに零牙が反応した。その眼はわずかではあるが希望を見出したように輝いている。

「…一つだけ心当たりがある」

昌彰は先日見たある術式を思い出した。出来ないことはないだろうがうまくいくかは賭けだ。

だが難しかろうとやらなければ美雪の命が危ない。

零牙は昌彰に頷くと静かに目を閉じた。

「リュウ、首にかけている“ソレ”。使わせてもらうぞ…」

零牙は皆に気づかれないようにさり気なく美雪の左手と龍之介の首元に手を翳す。

二人の持つ対となる環が魔力を帯び、それが繋がり、糸《パス》となる。

魔力の糸で結び付いた二人の内側は部分的とはいえ、美雪と龍之介お互いに無防備に晒される。

本来ならば当人同士の了解のもとに行うべきだが、今はそのようなことを言っている状況ではない。

糸を通じて龍之介の意識は美雪の意識へと重なっていった。

††††

(なんだ…これ…)

首にかけていた指輪が光り出した途端、龍之介は未知なる感覚に襲われ、困惑した。

自分が自分でないような奇妙な浮遊感。

だが目の前にいる美雪の姿を見た途端その困惑は消え失せる。

目の前にいる美雪は“何か”を胸の奥に抱え込むようにしてもがいている。

その“何か”が美雪を苦しめているのだと龍之介は直感した。

『ミユ!そいつを放せ!』

龍之介が美雪の腕をどかそうとするが美雪はその腕を振り払う。

『ミユ!?』

龍之介の叫びに美雪は薄く目を開けて首を横に振った。

『ダメ…』

途切れがちになりながらも美雪は言葉を紡ぐ。

『今…放したら…リュウの…ところに行っちゃう………そんなの…ダメ』

美雪も自身を襲っている苦痛は“ソレ”を抱え込んでいるからだと気付いていた。

手放せば苦痛から解放されるということも。

だが美雪は手放さない。手放せばその苦痛が龍之介に向かうとわかってしまったから…

『ミユ…』

『あの時…リュウは私を助けてくれた…だから…今度は私がリュウを助けるの…!』

自分が苦しいのはリュウが助かっている証だと思えば耐えられる…

そう美雪は苦痛に顔を歪めながらも微笑んだ。

『…か…』

『リュウ…?』

呟いた言葉が聞こえずに美雪は龍之介を見つめた。

『バカかっつってんだ!』

『っ…』

龍之介のあまりの剣幕に美雪は身をすくめた。

『オレは…オレはそんなこと望まない…』

龍之介はそう呟いて美雪の上に身をかがめる。

『俺は…お前の苦しむ姿なんか、もう見たくないんだ…』

『!…』

重なった二人は糸を通じて一つの儀式となる。

美雪は自分を襲う苦痛が嘘のように引いていくのがわかった。

(リュウ!ダメっ!)

美雪は必死で抵抗しようとした。だが龍之介は苦痛に顔を歪めながらも美雪を放さない。

(お前はオレが助ける。何度だって…だから…)

その言葉を最後に龍之介と美雪の意識は静かに、穏やかな闇に沈んでいった。

††††

「『アカキ、キヨキ、ナオキ、タダシキ…』」

昌彰の打ち鳴らす神楽鈴の音色が周囲に満ちる。

それと同時に玉串がゆらの手の中で震えた。

陰陽道よりもさらに神へと通ずることに特化した技法、神道の術式。

「『とほかみ、えみため、とほかみ、えみため、かんごんしんそんりこんだけん』」

昌彰の祝詞が響くごとに、美雪と龍之介を取り巻く怨嗟に満ちた神の呪力が浄化されていく。

ゆらが舞い、玉串が空を切り裂くごとに、神の呪力が鎮まっていく。

「『はらいたまい、きよめたまう』

最後の神楽鈴の音色が消えると同時に龍之介は美雪と重なったまま崩れ落ちた。

「リュウくん!?」

あざみ先生が慌てて龍之介を抱え起こす。

慌てる周囲を余所に龍之介も美雪も穏やかな寝息を立てていた。

先程までの苦悶の表情など嘘のように。

「(うまくいったみたいですね…)」

「ああ…」

零牙の言葉に昌彰は人知れず額の汗をぬぐった。

葛城の宗主に伝わる魂鎮《たましずめ》の秘儀。先日の依頼の際に見たその術の応用だったのだが、うまくいくかは賭けだった。

神そのものを鎮めるわけではないので多少は無理がきいたが、それでも難易度は高い。当然成功したことによる安堵も大きくなる。

「それよりこれからどないするん?」

ゆらが玉串を片手に問いかける。

「ああ…とりあえず、ゆらは一旦みんなと一緒に戻れ。俺と零牙は少し残って色々と調べないと…」

††††

「方角と建物の配置から見て…ここですね…」

昌彰と零牙は学園中央にある樹の下にいた。

先日、零牙が生き埋めにされそうになった場所の近くだ。

地面を見れば、石による台座と砕かれて散乱した木片が多数見える。

「白木だな…おそらく間違いないだろうが…随分と朽ちかけていたみたいだな」

昌彰が散らばった木片を調べてそう呟く。

「確かに随分と古い感じはしましたね…」

零牙も自分の記憶にあるものを思い浮かべて頷いた。

少なくとも定期的に手入れがなされていたようには見受けられず、そのまま朽ちていくのが自然の流れであるように思えた。

「だが随分と立派な社だったみたいだぞ?」

境内の区切りとなる石でできた欄干の名残を見る限り約一間(約一.八メートル)四方はある。

以前はきちんと祀られていたのであろう。鎮めるにはきちんと社を再建する必要があった。

「直せますか?」

零牙がそう問うと昌彰は思案顔になった。今から宮大工に頼んでも一両日で完成させるのは人間業では不可能だろう。

「白虎…使いを頼めるか?」

昌彰は若干躊躇いながら白虎を呼ぶ。

『承知した』

ただ一つだけ当てがあった。問題は間に合うかどうかだが。

「今日のところはこれまでだな。早く戻った方がいいだろうみんなも心配するだろうし」

††††

「ゆらさん…二人とも大丈夫でしょうか…」

雅が布団を持ったままゆらにそう聞いた。二人の、というより零牙の心配をしているのが表情からありありと読みとれる。

そんな雅に苦笑しながらもゆらは言葉をかける。

「大丈夫や。詳しくはわからんけどあの神様は零牙くんを気に入ってるみたいやし」

ゆらも心配して昌彰に尋ねたのだが昌彰はそう言って零牙と共に残ったのだ。

そう言いながらゆらは布団を零牙の家の客間に運び入れる。

昌彰達は零牙の家に泊まる予定なのだが、龍之介や美雪もいて布団が足りないので城崎家から運んでいるのだ。

まだ不安げな表情を見せる雅にゆらはさらに言葉を続けた。

「まあ一時的とはいえ、きちんと鎮めたからそこまで心配せんでもええと思うよ」

「う〜…そう…ですね…」

ゆらのその言葉に雅はようやく安心したのか、気を取り直したように布団を抱えなおす。

(ええ子やなぁミアちゃん…)

ゆらはまるで妹を見るような目で雅を見ていた。

「あ、でもミアちゃんは別の心配をせなあかんかもしれんな…」

「?どういう意味ですか?」

怪訝そうな表情で首を傾げる雅に、悪戯っぽい笑みを浮かべてゆらは爆弾(雅限定)を投下した。

「あの神様は、女神や」

「へ?」

雅は怪訝そうな表情のまま布団を取り落とした。
あとがき(という名の小劇場)

琥珀「あとがきのネタがない…」

玄武&太陰『我ら(私達)は無視か(なの)!?』

琥珀「おお!玄武に太陰!無事だったんだ!って!?何その純白のタキシードとドレス!?」

太陰『あの二人に着せられた…』

玄武『サイズを間違えて買ったとか言っていたが…』

椎「フフフ…やっぱ可愛えな〜。小さな花嫁、花婿さんや!」

菜摘「零牙くん達に着せようとしたらサイズ間違えて注文してたのよね〜。でも結果オーライ!」

玄・太『……///』

琥珀「二人とも…かなり、いや凄く可愛いからいいじゃない」

玄武『まあ、太陰のこの姿が見れたのは正直嬉しいが…』

太陰『ちょっと玄武!何言ってんのよ!?』

琥珀「(ああまた始まったよ…)ところで椎ちゃん。昌彰と零牙くん達が見当たらないんだけど…」

椎「ああ、ミアちゃん達ならあそこや」

††††

雅「さ〜てレイ。これは一体何なのかな?」

零牙「!み、雅さんそれを一体どこで?」

昌彰「あ…零牙がこの前忘れていったデジカメ(雅ちゃんのパジャマ、寝顔、私服、メイド服、水着、常盤台の制服の画像入り)…」

ゆら「お兄ちゃんの荷物から出てきたんやけど?」

昌彰「待てゆら、俺は何も関係ないぞ?だから呪符を取り出すのはやめてくれ…」

雅「レイ!きっちり説明してもらうからね!」

零牙「ミア、話せばわかる…だから…」

昌彰「零牙、その台詞は死亡フラグ…」

雅「問答無用!ゆらさん!」

ゆら「了解や!いくで貪狼!禄存!二人を捕まえりー!」

零牙「来るなぁぁあぁっ!!」(猛ダッシュで逃走)

昌彰「零牙!?落ちつけ!」(同じく逃走)

雅「逃がさないよレイ!」

ゆら「追うんや!貪狼、禄存!」

††††

琥珀「ああ、そう言えば不知木町に来た最初の目的は零牙くんが忘れたデジカメの返却だったね。すっかり忘れてた…。返す前に雅ちゃんに見つかったのか…零牙くん動物苦手なのに…ご愁傷様」

菜摘「まあ苦手じゃなくてもあれだけ大きいのに追いかけられたら逃げるわよね〜」

琥珀「で、あなた方二人はいつまでその二人を抱きしめているつもりですか?」

椎「ええやん。あと少しでコラボも終わってまうんやろ?それまでくらいは」

琥珀「ああ、ようやく終わりが見えてきましたよ。次が最後になるかな。長かったです。まさか三カ月近くかかるとは…」

菜摘「最後の方は随分進行が荒っぽくなってる気がするけど?」

琥珀「ごめんなさい。何故か書いているうちに辻褄が合わせにくくなるところが出てきて…やや強引になった感は否めません」

椎「むう…まあ最後はきちっと締めてな?」

琥珀「大丈夫だと思います…一応ちゃんと用意はあるから。それでは読者の皆様今回も読んでいただきありがとうございます!」

椎・菜「コラボ編も残すところあと一話!最後までよろしくお願いします!」


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