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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第二十八夜 白昼夜 〜交差する探偵と魔術師と陰陽師〜F
―深夜二時―

赤煉瓦に緑の洋瓦を乗せた洋館―風見鶏―の四階ホールに三つ―黒髪、白髪、青髪―の人影があった。

「『二人とも準備はいい?』」

無線越しにあざみ先生の声が聞こえる。

「ええ、こちらは抜かりなく」

零牙がそれに応える。既に風見鶏は昌彰と零牙が造った結界の陣に囲われている。

禹歩をベースに魔を捕らえるために特化した結界だ。

元が単純なため探知するのは著しく困難だ。そのため発動するまでは敵に気づかれる可能性はないと言っていい。

「ゆら、そっちは大丈夫なんだろうな?」

「『今のところ大丈夫。こっちには勾陣もおるし』」

ゆらは今回他の委員会メンバーの護衛に回っている。

風見鶏の防犯カメラの映像は全て初等部の守衛室に送られるため、あざみ先生を始めとした委員会メンバーと美雪達もそちらに詰めている。

美雪は「婚約者の事ですから」と笑顔で押し切って参加してきた。

昌彰や零牙が止めても聞くはずもなく、龍之介も美雪に懇願されて(正しくは呪符で脅されて)渋々認めざるを得なかった。

「『そろそろよ…』」

あざみ先生が昨夜と同じ時刻になることを無線で告げてくる。

その瞬間、ぶわりと不自然な風がホールを吹き抜けた。

窓は全て施錠されているので風が吹き込むはずがない。即ち…

『昌彰!零牙!来たぞ!』

朱雀の声に昌彰と零牙が視線を巡らせればエレベーターの扉の前に白い着物の人影が佇んでいた。

「『オン…』」

昌彰は即座に刀印を結び、風見鶏を覆う結界を起動させる。

零牙は逆刃刀の柄に手をかけて構える。

それらに動じることなく鬼女は漆黒の髪をうねらせ、その眼光で零牙と昌彰の方を射抜いた。

「っ…」

その瞬間鬼女の纏う空気が変わった。その変化に思わず昌彰は息をのむ。

今までのが凪ぎだとするならば今のそれはまさに嵐。

それほどの霊力が鬼女の身体から放たれる。

『昌彰、呑まれている場合じゃないぞ!』

「わかってる!」

白虎に叱咤されて、昌彰は刀印を構えなおした。

「『オン、アビラウンキャン、シャラクタン!』」

真言で叩きつけられる霊力を撥ね退ける。それを受けてさらに鬼女はその霊気を爆発させ、瞳から血の涙を滲ませた。

ゾクリ…

寒気が昌彰の背中を走る。昌彰はそれに思わず身を震わせる。

恐怖故にではない。強いて言えば“畏れ”…。

(だが、どこか違う…)

リクオ達妖怪の放つものとはどこか違う。昌彰も先日の零牙と同じく違和感を覚えた。

もしこの場にリクオがいれば気付いただろう。鬼女の放つ畏れが…

昌彰が四国勢との戦いのさなかに放った畏と酷似していることに。

―――

昌彰が真言を唱えると同時に零牙は『肉体強化《ルシフェル》』を使って、鬼女目掛けて間合いを詰めていた。

勢いそのままに右足を踏みこみ、逆刃刀を抜き放つ―飛天御剣流、双龍閃。

相手が人でないとわかっている以上出し惜しみはしない。

その初撃は神速の抜刀術。昨夜の刃を風に例えるなら今回は迅雷のごとき一閃。だが…

(なっ!?)

鬼女はその爪で過《あやま》たずに逆刃刀による一撃を受け流したのだ。

それでも零牙は左足を踏みこみ、鞘による二撃目を放った。

鬼女はそれを霊力の障壁で以て弾く。その眼は既に零牙を見ていない。

視線の先にあるのは立ちつくす龍之介の姿。それ目掛けて鬼女は駆ける。

「『禁』!」

その間に昌彰が割って入った。刀印で床に真一文字に線を引き、障壁を築く。

鬼女の振るった爪と障壁が拮抗し、耳障りな嫌な音を立てる。

「朱雀!白虎!」

『『承知!』』

障壁で足を止められた鬼女に左右から朱雀の大剣と白虎の鎌鼬が迫る。

鬼女は朱雀の大剣を左手の爪で受け止め、白虎の鎌鼬を霊力を爆発させることで相殺した。

その間も右手で目の前に張られた障壁を突き破らんと爪を突き立て、昌彰の方を睨みつける。

その瞳に宿っているのは怨嗟の念…。

「っ…零牙!」

その視線に一瞬ひるんだものの、昌彰は零牙の名を叫ぶ。

「飛天御剣流…九頭龍閃!」

剣術における九つの攻撃箇所―唐竹、袈裟斬、右薙、右斬上、逆風、左斬上、逆胴、逆袈裟、刺突。

九頭龍閃はそれぞれに同時に攻撃を仕掛ける乱撃術にして突進術。

さらにそれぞれが一撃必殺の威力を持つがゆえに回避も防御も不可能。

その一撃が障壁と神将の攻撃で身動きを封じられた鬼女を捕らえる。いや、捕らえたはずだった。

「なっ!?」「くっ!?」

昌彰と零牙は驚愕と焦りに声を漏らした。鬼女の姿が突如として掻き消えたのだ。

そうなれば当然のように零牙の刃は昌彰の障壁に突き刺さる。

鬼女によって限界近くまで削られていた障壁は零牙の刃を止められるはずもなく…

「うわっ!」

術を破られた反動によって昌彰は衝撃で後ろへと吹き飛ばされる。

『昌彰!』

壁に叩きつけられる直前で白虎が昌彰を受け止めた。

―――

昌彰と零牙の迎撃をかわした鬼女は再びその姿を現した。

『我が…社《やしろ》……のは…お主か…』

その目の前にいる龍之介は恐怖故にか、棒立ちになったままだ。その喉仏へと鬼女は爪を伸ばした。

―しかしよく見れば気付いただろう。鬼女の目の前にいる龍之介の表情があまりにも静かなことに。

鬼女の爪が喉笛を貫くと同時に、龍之介の姿は掻き消え、一枚の呪符が宙を舞った。

「『オン…』」

昌彰の一言で呪符は光の網となり、鬼女を拘束する。

それに気づいた鬼女は髪を振り乱し、結界を貫かんと爪を振るうが光の網はそれを弾く。

「飛天御剣流…」

そこに逆刃刀を鞘におさめた零牙が迫る。

鬼女がそれに気づき、逃れようとしたが…

「奥義…天翔龍閃《あまかけるりゅうのひらめき》!」

飛天御剣流は神速の抜刀術。

奥義・天翔龍閃は抜刀時にさらに鞘側の足を踏み込むことによって、神速を超えた『超神速』の剣となる。

天空が創り、昌彰が退魔の力を付与した逆刃刀は昌彰の織りなした縛魔術ごと鬼女を一刀両断せしめた。

「『ナウマクサンマンダ、バザラダン、センダマカロシャダ、ソワタヤ、ウンタラタカンマン!』」

両手で印を組んだ昌彰の詠唱が轟く。

「『臨める兵、闘う者、皆陣列れて前に在り』!」

昌彰は左手で作った鞘から刀印を抜き放ち、こちらを睨みつける鬼女目掛けて振り下ろす。

「『万魔拱服』!」

裂帛の気合が白銀の爆裂を巻き起こした。

―――

「消えた…」

「倒したんですか?」

零牙が何とか立ち上がって歩みよってくる。

奥義・天翔龍閃の負担が零牙の身体を蝕んでいるのだろう。

微かに膝が震え、立っているのもやっとといった状態だ。

既に肉体強化も解けてしまっている。

「わからない…確かに術は当たっていたはずなんだが…」

術による白銀の爆裂に呑まれた鬼女は確かに消滅していた。

しかし鬼女が消えゆく際に覚えた違和感。それが昌彰の手に残っていた。

龍之介の姿を映した式を囮に使い、確実に捕らえ、逃げる隙を与えずに最速で滅する。

神出鬼没の相手に張った策は成功したと見てよいだろう。だが…

「なにかが気になるんだよな…」

確かに昌彰の術は効力を持っていた。捉えた手ごたえもあった。しかし何か違和感がぬぐえない。

「……」

同様の違和感を零牙も覚えていた。昨日といい、今日といい確かに相手を斬った手ごたえはあった。

しかし、どこか違和感が付きまとう…

『俺も何か違和感があったな。どうも普通の悪霊の類とは違う雰囲気というか…』

朱雀もそう言うが正確な正体が見定められているわけではないようだ。

『…昌彰、先程の鬼女について占じてみた方が良いのではないか?』

全員が何かしらの違和感を覚えている。

白虎の言葉に昌彰は頷くと音楽室の扉の横に置いていった鞄から筮竹《ぜいちく》を取り出してきた。

細い竹の束であるそれは持ち運ぶにしても大してかさばらない。

さすがに式盤を持ち運ぶわけにはいかないので念のためにと持ってきたものだ。

「まずは今回の件について大雑把に占じてみるか…」

ザラザラと筮竹を手の中でかき混ぜ、一本を抜きだして横に置き、残りを扇状に広げる。

それを左右に分け、幾本かずつ数えとり、反対の手へと渡す。

それを数度繰り返し、一通りの卦がでた。

「何かわかりましたか?」

静かに昌彰の作業を見守っていた零牙が訊ねる。式盤の卦もそうだが、筮竹も結果は陰陽師にしか読み解けない。

「…天沢履《てんたくり》…?」

意味は「虎の尾を踏んでしまったが礼を尽くして慎めば吉」というものだ。

『どういうことだ?』

朱雀が首をひねる。地縛霊や悪霊その他の魑魅魍魎の類による霊障ならばこのような卦が出るはずがない。

「……」

無言で昌彰は再び筮竹を束ねた。今度はより明確に正確に、何かに急き立てられるように昌彰は手を動かす。

それでも体にしみこませた動作は狂うことなく占の結果を導き出した。

「………っ!?」

その結果を見て昌彰は凍りついた。そこに現れたのはあってはならないことが示されていた…

「昌彰さん…なんて出たんですか?」

黙り込んでしまった昌彰を零牙は促す。

「か…の…逆…」

「え?」

あまりにもか細い声に零牙は再び聞き返した。

「神の…逆鱗…」

あの鬼女は悪霊でも怨霊でも、ましてや妖怪でもない…

何処かの神、そのものだと…

昌彰の退魔術や零牙の逆刃刀が効かないのも当然だ。相手は「神」であって「魔」ではないのだから。

「っ!!」

昌彰はゾクリと身を震わせた。

「なんで…まさか!?」

零牙もある種の魔術の反応を感じ取って視線を上げた。

「ゆら!」「ミア!」

二人の視線の先にあったのは初等部の校舎を覆い尽くすほどの先程の鬼女の霊力が織りなした結界だった。

††††

「!映像戻りました!二人とも無事みたいです!」

「…よかった」

風見鶏からの映像が復旧し、雅は安堵のため息を漏らした。

「リュウくんの式が消えとる…やっぱり狙いはリュウくんやったんか…」

ゆらはそう呟いてちらりと龍之介の方を見やる。

「リュウ…もう大丈夫だよ」

「あ、ああ…」

美雪が息を詰めて画面を見つめていた龍之介の手を握り締めた。

(なんや…?)

復旧した映像を見ていたゆらは昌彰の表情が曇っているのに気がついた。

「レイ…?」

同様に雅も零牙の表情が優れないのに気付いたようだ。尤も零牙がかなりふらついているのでそれの心配もあるのだろうが…

連絡を取ろうと無線へと手を伸ばす。

その伸ばした先に漆黒の影が差した。

「っ!?(なんで!?)」

その影の持ち主を見てゆらは驚愕に目を瞠った。それは先程昌彰達が討ち果たしたはずの鬼女だったから。

唐突過ぎるその出現にゆらも咄嗟の対応が遅れる。

その隙に鬼女は周りにいるゆらや雅達には目もくれず、その爪で龍之介の喉笛を切り裂かんと飛びかかった。

刹那、爪と筆架叉が交差し、火花を散らす。

隠形していた勾陣が即座に顕現し、美雪と龍之介を庇うように立ち塞がった。

左手の筆架叉で鬼女の右手の爪を抑え、右手は鬼女の左手を掴んで鍔迫り合いに持ちこむ。

『ゆら!今のうちだ』

「う、うん!みんな外へ!」

勾陣の叫びで我に返ったゆらと、一度遭遇しているために比較的動揺の少なかった雅を先頭に守衛室から廊下へと逃れる。

「なっ!?(ウソ…やろ?)」

守衛室の外には鬼女の放つ霊力が満ち、霧が実体化したような獣が待ち構えていたのだ。

「みんな下がって!『貪狼!武曲!』」

『御意!』

ゆらは己の式神を用いて鬼女と相対する。間髪をいれずに霧の獣はゆら達へ襲い掛かって来た。

「『禁』ッ!」

ゆらは目前まで迫っていた霧の獣を障壁で弾き返す。

弾き飛ばされた獣は武曲が槍で一刀両断した。

しかし斬られた獣はそのまま再び霧となって周囲に満ちた霊気と同化していく。

さらに何かが弾けるような音がゆらの耳朶を打った。見れば背後からも獣は襲い掛かって来ていた。

辛うじて昌彰の護符がそれを退けている。

「くっ…貪狼!」

ゆらは貪狼を差し向けるがいつまでももたないことが目に見えていた。

倒された霧の獣は周囲に満ちた霧から再び生まれ出てくる。これでは千日手だ。

バゴンッ!!

派手な音を立てて守衛室の壁が内側から吹き飛んだ。

そこから勾陣と鬼女が縺れあったまま飛び出してくる。

「(あかん…このままやと…)廉貞!」

ゆらは新たな式神、廉貞を呼びだす。

「式神改造、人式一体!」

この獣を止めるには大本を叩くしかない。そう考えてゆらは照準を勾陣と相対する鬼女へと合わせた。

―ゆらはまだ知らないが、相対している鬼女の正体はこの地に宿る神そのもの。

―つまりこの地に存在する地霊はその使役下にあるのと同義だ。

「黄泉送葬…」

ガシャァンッ!!

ガラスが砕け散るような音を立てて、初等部の校舎を覆っていた鬼女の結界が砕け散った。

「ゆら!撃つな!」

それと同時に窓をぶち破って昌彰と零牙が飛びこんできたのだ。

††††

「昌彰さん、神の逆鱗ってどういうことですか?」

白虎の風の中で零牙は昌彰に問いただした。昌彰が快癒の咒《まじない》を施し、止痛の符を貼ったことでどうにか普通に動けている。

「あれはおそらくもともとこの地にいた神だ」

そう言って昌彰は学園の中央部を見やる。正確にはそこに生えている桜の古木を。

「それじゃあの鬼女は…“荒魂(あらみたま)”?」

神の霊魂には二つの面がある。一つは『和魂《にぎみたま》』、人々に恩寵を与える慈悲に満ちた面。

そしてもう一つが『荒魂』、天変地異を引き起こし、祟りを為す。荒ぶる怒りに満ちた面。

「おそらくな…(弱っていたところに社を破壊されて荒魂となったか)」

龍之介の式へ向けた鬼女の叫びから昌彰はそう推理を進める。

神籬として十分な機能を果たす桜の古木。そしてこの地に流れる霊脈。

どちらを取っても神が座しているには十分な条件だった。

だが昌彰も、そして零牙も気付けなかった。あまりにもその存在が希薄だったのだ。まるで眠っていたかのように…

『昌彰…やはり内部には入れぬようだ…』

白虎の声に昌彰は思考の海から引き揚げられた。

昨夜の修達の時と同じく、入ろうとすると反対側にはじき出されてしまうのだ。

昌彰と零牙は白虎の風を解き、結界の前に降り立った。

「…天一」

『ここに…』

結界を睨み、一瞬逡巡した後に昌彰は天一を呼びだした。

「結界に結界をぶつけて相殺する。やってくれるな?」

『承知いたしました』

天一はそう答えると静かに目を閉じた。放たれる神気で金色の髪が翻る。

金属同士が擦れ合うような音が辺りに満ちる。鬼女の結界と天一の結界が拮抗しているのだ。

天一の端正な顔に苦悶の色が混じる。

「天一…」

昌彰がやめさせようと声を発すると同時に鬼女の結界が砕け散った。

天一はそのまま糸が切れたように崩れ落ちる。

「天い…『天貴!』」

咄嗟に顕現した朱雀がそれを抱きとめる。通力を消耗しすぎたであろう天一は完全に気を失っていた。

「朱雀、天一を頼む」

『…言われるまでも無い。早く行け!』

一瞬昌彰を睨んだ朱雀だったが、即座にそれを打ち消して二人を促した。

その言葉を背に昌彰と零牙は走り出す。自らの護るべき人を護るために…

††††

窓をぶち破って突入した昌彰の前ではゆらが今にも鬼女へと攻撃しようとしているところだった。

「(マズイ…!)ゆら!撃つな!」

あの鬼女は神、それも荒魂だ。下手に攻撃すれば確実に祟られる。

昌彰は入って来た瞬間に自分に向けられた殺気からそう判断した。

その予想は違わず、先程まで龍之介を狙っていた地霊たちは一斉にその矛先を昌彰へと向けた。

咄嗟に零牙が盾になるように逆刃刀を振るうがその動きにキレがない。捌ききれなかった地霊が昌彰に襲い掛かる。

「『オンキリキリバザラ…』っ!」

咄嗟に真言を叩きつけようとした昌彰だったが、相手が神の使役であることを思い出して詠唱を止めた。

下手に攻撃すればさらに怒りを買いかねない。目の前に迫ってくる地霊を昌彰は寸でのところで身を捩ってかわした。

『昌彰!』「お兄ちゃん!」

勾陣とゆらの意識が昌彰の方へと集中する。

ほんの刹那の隙。その隙をついて鬼女は動いた。

鍔迫り合いになっていた右手で勾陣の左手の筆架叉を撥ね退ける。

『ぐっ…』

呻く勾陣を尻目に鬼女はその右手を龍之介に向けて咆えた。

聞いたものの魂をすくませるような咆哮は霊力を纏って呪詛の念となり、龍之介へと襲い掛かる。

雅達に渡した昌彰の護符が反応し、幾重にも障壁となるが地霊たちに削られた障壁が耐えられるはずもなく、鬼女の霊力の前に瞬く間に突破された。

「リュウッ!」

昌彰もゆらも零牙も誰もが間に合わないと思った。しかし…

龍之介の傍らにいた美雪がその身を鬼女の祟りの前に晒したのだ。

結果として美雪は龍之介が受けるはずだった呪いをその身に受け、声も無く床へと崩れ落ちた。

「ミユッ!?おい!しっかりしろ!!」

龍之介は目の前で起こったことが信じられずに倒れ伏した美雪を抱き起す。

美雪はぐったりとうめき声すら漏らさず、完全に気を失っていた。

―――

「ミユちゃん!(このっ…)」

ゆらは頭に血がのぼるのを感じた。一瞬の油断から友人を傷つけられた。

「『臨める兵 闘う者 皆陣列れて…「ゆら落ちつけ!手を出すな!」」

怒りにまかせて真言を叩きつけようとしたゆらを昌彰の叫びが止めた。

「なして止めるんや昌彰!」

ゆらは苛立ちを隠さず昌彰に怒鳴り返す。

「あいつはここの神だ!下手に手を出せば祟られるぞ!!」

「えっ?」

予想外の言葉にゆらは動きを止めてしまう。

その決定的な隙を敵が見逃すはずもなく、昌彰を狙っていた地霊の一部がゆらの方へと躍りかかる。

『そうはさせん!』

再び顕現した白虎の風が地霊たちを薙ぎ払う。

『ゆら、お前は護りに専念しろ。あいつは昌彰が相手をする』

「!わかった!」

白虎にそう言われてゆらは雅達の方へ駆け寄った。

零牙がそちらに行こうとする地霊たちを押しとどめているが、雅達を護るものは今何もないのだ。

『昌彰よ、詳しく説明してくれ…るんだろうな?』

勾陣が鬼女を抑えながら振り返らずに昌彰に問いかける。

「詳しいことは後だ。今は…」

縛魔術で地霊たちを抑え込んだ昌彰は勾陣越しに鬼女に対峙する。

昌彰を目にした鬼女は勾陣を振りほどかんと暴れるが、勾陣が己の神気でどうにか拘束する。

「さて…」

昌彰は静かに鬼女(神)に視線を向けた。両手を拝の形に合わせ、拍手《かしわで》を打った。

「『幸魂《さきみたま》、奇魂《くしみたま》、安らげ鎮まり給え』」

昌彰が祈念の詞《ことば》を紡ぐごとに地霊の攻撃思念が霧散していく。

「『和魂、荒魂、平らげく治まり給え…』」

勾陣と組みあっていた鬼女の姿が掻き消え、周囲を覆い、荒れ狂っていた霊気が嘘のように鎮まった。

「ふぅ…」

昌彰は思わず安堵の息を漏らした。

冗談抜きで神は祟るのだ。これ以上戦闘を続けていては下手をすれば末代まで祟られていた可能性さえある。

完全に鎮まったわけではないが今日中に再び出てくるようなことはないだろう。

「ミユッ!」「ミユちゃん!!」

「っ…(まだ終わってない…か)」

聞こえてきた悲痛な叫びに昌彰は緩みかけていた気を再び引き締めた。

龍之介に放たれ、美雪が受けた祟りはまだ無効化されていなかったからだ。
あとがき

琥珀「ええっと…」

昌彰「(今回は弁護の余地がないな)」

ゆら「(さすがにね…)」

琥珀「およそ三週間ぶりです…お待たせしてしまってごめんなさい」

ゆら「(最近あとがきでごめんなさいって多くない?)」

昌彰「(更新速度がガタ落ちだからな…隔週どころか月一に落ちそうだ)」

琥珀「完全にスランプに陥っておりました。その上大学の実習まで始まる始末…」

昌彰「はいはい、言い訳はそこまで。今話の話に入ろうか?」

琥珀「はい…」

ゆら「今回でようやく戦闘シーン。そして鬼女の正体がわかったわけやけど…」

昌彰「なんか違和感があるというか、強引じゃないか?」

琥珀「スランプど真ん中で書いたもので…。諸々のグダグダは目を瞑っていただけると嬉しいです。はい…」

ゆら「しかもまだ終わってへんのやろ?」

琥珀「ええ、次話は呪いを肩代わりしたミユちゃんの話です。それでこの夜の話は終わりかな?」

昌彰「ハァ…無事に終幕させられるんだろうな?」

琥珀「きちんと最後のところは出来てるんだよね…。後三〜四話くらいかな?ただ流れがうまい具合に行かないと所々省略するかも。物語上の時間で残り二日なんだけど」

ゆら「ちゃんとミアちゃんとミユちゃんのイベントもやってやってな?」

琥珀「それはもちろんやるよ。終盤の怒涛のコメディーパートで」

昌彰「ちゃんと締まるんだろうな?最後までコメディーでやったらさすがに…」

琥珀「大丈夫最後はちゃんとシリアス(?)で締めるから」

ゆら「(?)がめっちゃ不安なんやけど?」

琥珀「残りはシリアスとコメディー、三対七くらいの比率になるかな?」

昌彰「コメディー比率高くないか?」

琥珀「イベント消費を後回しにしてたらこうなった…」

ゆら「ハァ…。で、今後の更新はどうなるん?」

琥珀「……非常に言いづらいのですがさらに不定期になる可能性が否定できません…下手するとしばらく更新できないかも…」

昌彰「……また試験か?」

琥珀「はい…。よくわかっていらっしゃる…」

昌彰「大体そうだろうが!お前は!試験前になると更新ができなくなるパターン!」

琥珀「すみません…一番早いと思われるものが十一月十日に在ります…その後はまだ告示されてないですが四つほど…」

昌&ゆ「「ハァ……」」

琥珀「すみません…<(_ _)>」

昌彰「読者の皆様、またしばらくこの作者が使い物にならなくなるみたいですのでご容赦ください」

琥珀「学生の方ならわかってくれるでしょうけど…テストなんて嫌いだ〜!!」

ゆら「作者が壊れて来たので今回はこの辺で…それでは読んで頂いてありがとうございます!」

昌彰「今後も不定期更新でしょうが読んで頂けると嬉しいです」

昌&ゆ「「それではまたいつになるかわかりませんがまた次回お会いしましょう」」



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