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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第二十七夜 白昼夜 〜交差する探偵と魔術師と陰陽師〜E
「連絡をしてくれればよかったのに…(しかし助かりました…)」

「すまないな、急に電車の予約が取れたもんだから…(昨日の件か?)」

昌彰と零牙は雅や他の委員会のメンバーに気取られないように囁きかわした。

「零牙くん達、わたし達にも紹介してもらっていいかな?」

鈴音にそう言われて昌彰と零牙が周りを見回してみれば部屋にいる全員の視線が昌彰達に集中していた。

鈴音は今にもゆらと雅に飛びかかっていきそうな菜摘を抑えている。

尤も空手部のエースの菜摘に小柄な委員長は徐々に引きずられていたが…

「そうだな。俺たちも先輩たちを紹介したいし…(椎、今度の食事会は納豆フルコースにするぞ?)」

修も完全にエロ親父顔になっている椎の首根っこを掴んでいた。椎は後半に囁かれた台詞で生ける屍と化していたが。

「あ、はい。えっとこちらが…」

「安藤昌彰といいます。浮世絵中学で生徒会副会長をやっています。零牙くんとは地元で協力して事件を解決しまして…その縁で連絡を取り合ってます」

そう言って昌彰が一礼する。

「花開院ゆらです。兄と同じく浮世絵中で生徒会会計をやっています」

ちなみにゆらを会計に決めたのは昌彰だ。実務のトップと財源さえ抑えておけば清継も生徒会予算を下手なことには使わないだろうと考慮してのことだ。

「へぇ〜花開院って珍しい苗字やなぁー。たしか京都に同じ地名があったよーな」

納豆ショックから立ち直った椎が身を乗り出すが、再び修に抑えられた。

椎の母親は関西人なので親近感がわいたのだろうか?

「(いや、むしろ単にゆらを近くで見たかっただけという可能性の方が高いか…)」

椎と菜摘の視線からゆらを庇うように昌彰は前に出た。

「あざみ先生、今回の件、お二人に協力してもらってもいいでしょうか?」

ようやく落ち着きだした委員会のメンバーをみつつ零牙はあざみ先生にそう切り出した。

「もう分かってはいると思いますけど、今回の件は人間の仕業じゃありません…」

「だろうな」

「でしょうね」

零牙の言葉に修と菜摘は頷いた。

昨夜のような体験をすれば受け入れざるを得ないだろう。

「お二人は陰陽師ですのでこう言った事象にも詳しいですし…」

『昌彰、今戻ったわ』

零牙が説明していると、いきなり中空にツインテールの少女の姿形をした式神が現れた。

雅や零牙は以前見たことがあるが、鈴音をはじめとした他のメンバーは初めて見る魔法とも呼ぶべき現象に驚いた表情で固まっている。

若干二名の視線は完全に太陰をロックオンしているような気がしないでもない。

「太陰か。…白虎はどうした?」

昌彰は学園に入る際に、風将である太陰と白虎に周囲の警戒を命じていたのだ。

もっともその網に引っ掛かったのはゆらを盗撮しようとしたFFF団の面々だったわけだが…

『上空に残って監視するって…!?』

その報告をしていた太陰は背筋に殺気とは違う嫌な気配を感じた。

「「か…」」

「か?」

太陰の背後から聞こえた声に昌彰がそちらを見ようと体をずらした。

「(お兄ちゃん…避けたがええと思う…)」

「「かわいい〜(ええ〜)」」

『はぅわっ?!!』「うぉわっ!?」

先程から太陰に熱い視線を向けていた菜摘と椎は委員長と修の拘束を振り払い、飛びかかって来たのだ。

二人が突っ込んでくる方向に立っていた昌彰は慌てて飛び退く。

「…ええっと…」

間一髪で二人の突進を避けた昌彰は戸惑ったように視線を修達に向ける。

しかし、修と委員長は苦笑とすまなそうな視線を向けてくるばかりだ。

梢は溜息を一つ吐いて明後日の方向を見やっているし、あざみ先生は相変わらず面白そうにそれを見ている。

雅はゆらと美雪を連れて、できる限りその二人から離れていた。

「(…昌彰さんわかってて太陰さんを呼びました?)」

零牙にそう囁かれて昌彰は零牙から聞いていた菜摘と椎のことを思い出した。

二人とも『可愛い子が好きな人』であるとかなりオブラートに包んだ言い方ではあったが…。

『ちょっと昌彰!助けなさいよ〜!』

捕まっている太陰は必死でもがき、昌彰に助けを求める。人間相手に手は出せないにしても、隠形して霊符に戻ってしまえばいいのだが…

「キレ〜な髪やな。撫でてて気持ちええわ〜」

「うふふ、ツインテールっていうのもツボよね」

『ちょっ…なんなのよ一体〜!?』

菜摘と椎、二人の暴走は止まる気配を見せない。太陰は為すすべもなく人形のように弄ばれている。

「…玄武、後は任せた」

完全に変態(ロリコン)と化している二人を見て、微かに頬を引き攣らせながら昌彰は新たに玄武を召喚した。

『承知した』

玄武は即座に応じて顕現する。この分だとほっといても勝手に顕現してきたかもしれない。

太陰をいじくりまわしている二人の元へてくてくと歩いていった。

―――

『二人ともそろそろ太陰を離してやってほしいのだが…』

「へ?」「うん?」

太陰に夢中になっていた菜摘と椎はその声でようやく太陰を撫でまわしていた手を止めた。

しかしそれと同時に視線も玄武へとロックオンする。

『太陰、今のうちに…「「かわいい〜(ええ〜)」」ぬぉっ!?』

太陰を小脇に抱えた変態達はそのまま玄武をも襲撃していた。

「ええな〜うちもこういう弟がほしい!」

『ぬ…我はこう見えても…ワプッ!?』

玄武の言葉が途中で途切れる。菜摘が思いっきり玄武の頭を抱きかかえたからだ。

「いや〜ん。かわいいのに口調は堅〜い」

…太陰と同じように完全にお人形にされてしまう玄武であった。

―――

「…椎の奴、ロリコンだけじゃなくショタコンの素質もあったのか…」

幼馴染の新たな一面の発見に修はもはや苦笑するしかない。零牙が来た時にも多少その気があった様な気はしていたが…

「菜っちゃんも…空手部の人たちがこの姿を見たら泣くわね…」

鈴音は既に軽く涙を浮かべているように見えるのは気のせいだろうか?

椎の妹の梢は申し訳なさそうな何とも言えない顔をしている。

「(太陰と玄武を手玉に取るとは…あの二人、侮れないかもしれないな…)っと、それより話を進めたいんだけど…二人を戻してもいいかな?」

昌彰がどこかずれた感想を抱きながら零牙に訊ねた。

「(やめといたほうがいいですよ。引っ込めたら今度はたぶんゆらさんに行きますから)」

ぼそぼそと零牙は囁き返す。昌彰は無言でそれに頷くしかなかった。

ちなみに太陰と玄武はというと…

―――

『玄武…あんたねぇ…』

『なんだ太陰?黙って見ているだけでなくなんとか脱出する方法を…フムッ!?』

『デレデレしてんじゃないわよ!!』

妙齢の女性二人を相手に下手に動けない玄武の頬を太陰が引っ張る。

「へぇ〜」「ふむふむ、二人はそういう関係だったのね…」

神将二人を抱え込んだ変態二人はしたり顔になって太陰を覗きこんだ。

『なっ…そ、そんなんじゃないわよ!!』

太陰は、それはもう面白いくらい顔を真っ赤にして否定の言葉を口にする。

『太陰…手を放してくれうと助かるのだぐぁ…』

まだ頬を引っ張られたままの玄武はそのままの状態でなんとか言葉を紡いだ。

『も、元はと言えば玄武が悪いんじゃない!』

さらに赤くなって玄武の頬を引っ張る太陰。

菜摘と椎はそんなことを気にせず二人をいじり続けるのであった。

††††

「とりあえず詳しい説明をしますね」

太陰と玄武を弄くりまわしている菜摘と椎を余所に零牙は昌彰とゆらに昨日の状況も含めて説明を始めた。

「ああ、そうだな。頼む」

昌彰もこのままでは埒があかないと判断し、説明を聞くために応接セットのソファーへと腰を下ろした。

しっかりとゆらを内側に入れ、万が一にも菜摘と椎が襲ってきても対処できるようにしておくも忘れない。

「最初に出たのは先週のこと、高等部の校舎の巡回警備員が目撃したらしいわ」

そう言いながらあざみ先生は机の前に積んである資料の中から学園の地図を強引に引きずり出した。

ただ積んであった資料の山は当然雪崩をうって崩れ落ちる。

修は「またか」と言った顔で溜息をつき、鈴音は散らばった資料を片付けようとするが不器用なせいか積み上げてもまたすぐに崩れ落ちてしまう。

委員会の日常と理事長室の散らかっている理由が垣間見える光景だ。

「今まで出たのは五か所。こうして見るとホントにバラバラですよね」

梢があざみ先生の広げた地図に今まで出た場所をペンでマークしていく。

高等部校舎、中等部校舎、事務管理棟、初等部校舎、特別教室棟風見鶏。

これら五か所はやや中央寄りではあるものの均一に散らばっている。

「そして傾向なんだけど、今まで一度も連続して同じ場所に出た事はないそうよ」

あざみ先生が出てきた順に五か所を指で辿った。

「ん?」

その動きに昌彰は見憶えがあるような気がして首を傾げた。

「先生、もう一度出てきた順番教えてもらっていいですか?」

「ええ。えっと…高等部、管理棟、中等部、初等部そして風見鶏の順だけど…」

もう一度あざみ先生が地図の上をなぞる。その指の動きはあるカタチを創っていた。

「まさか…」

「!昌彰さん、もしかして…」

二回目で零牙もそれに気づいた。

「ああ…すみませんペンを貸してもらっていいですか?」

昌彰は梢からペンを受け取り、地図上に直線を記していく。

高等部から管理棟へ、管理棟から中等部へ、中等部から初等部へ、初等部から風見鶏へ…そして風見鶏から高等部へ。

「やっぱり…」

「これは…」

そこに現れたのは五芒星。洋の東西を問わず破邪の印、魔術の紋章として扱われる力ある象徴《シンボル》。

「昨日の隔離現象と言い、リュウの所に出た鬼女と言い、ホントに呪詛なんじゃ…」

明らかに魔術的な痕跡に零牙は呟いた。下手をしたら龍之介に害が及ぶ可能性がある。

「待て零牙、その話は初耳だぞ?」

昌彰とゆらは昨日の捕縛作戦前までの情報しか聞いていない。

零牙は手短に昨日の捕縛作戦とついさっき龍之介が持ちこんできた相談について説明した。

「……」

「昌彰さん?」

新たな二つの情報を聞いてから昌彰は呪詛かもしれないという自分の仮説に疑問を持った。

呪詛ならば相手に害を為すことを目的としているはず。しかし話を聞く限りではさほどの実害は出ていない。

さらに対象が龍之介だとはっきり分かっているのなら校舎の方に出てきた鬼女の方が説明できない。

仮に余波が鬼女として実体化したとしても何故出た学校なのかという疑問も残る。

かと言ってこれほどまでに類似した現象が個別に起こるとは考えにくい。

「っ〜…ダメだ。考えても埒があかない。零牙、あざみ先生。今日もその作戦やることはできますか?」

行き詰った昌彰はそう提案を出した。実際に自分で見てみれば何かわかる可能性は十分にある。

「問題ないわ。どうせ今日もやる予定だったし、人手が増えるのもありがたいしね!」

あざみ先生は微笑みながら即断で許可し、他のメンバーからも反対意見は出ることも…

「あ、あざみちゃん。私パス!」

「うちもや!」

反対意見は出なかったが欠席願いがまだ太陰と玄武を弄んでいる二人から飛び出した。

「ちょ、先輩!?」

零牙が焦った声を上げる。

他の委員会メンバー中随一の武闘派の菜摘に、超能力に等しいまでの直感を持つ椎が抜ければ戦力の大幅な低下は免れない。

「ゴメンね。けどこんな良質な素材放っておけるわけないでしょ!行くよ椎ちゃん!」

「了解や!!」

しかし無情にも椎と菜摘は理事長室から飛び出して行った。

…太陰と玄武を抱えて。

「「「「……」」」」

あまりの速さに昌彰達は呆然と見送ることしかできなかった。

「はぁ…。まあいいわ。昌彰くん、今のうちに細かい作戦を詰めていくわよ」

あざみ先生が気を取り直したように今後の方針を決めようとする。

「ええ、構いませんよ。それで零牙、あれはだいじょうぶなのか?」

皆が昌彰の指差した方を見れば、そこには全身に足跡がついて気絶したままの龍之介が転がっていた。

「「「「あ…」」」」

美雪に気絶させられた後、どさくさにまぎれて放置されていた上に先程椎と菜摘に踏まれたのであろう。

『昌彰様…一応治療を…』

昌彰の背後に静かに天一が顕現した。零牙以外の委員会メンバーは新たな式神の登場に目を白黒させている。

これが青龍あたりだと怯えてしまうだろうが…

「天一さん、ほっといていいですよ。そのうち復活するはずですから」

昌彰が何か言う前にいつもの事だと零牙が流す。

『では意識が戻るまではこうしておきますね』

そう言って天一は神気を用いて龍之介を運んでくると床に腰を下ろし、その頭を自らの膝に乗せた。

「……(ジー)」

その様子を食い入るように見つめる美雪。やがて何か決心したように天一の側へ行くと話しかけようと口を開いた。しかし…

『天貴…そういうことは俺以外にするな…』

龍之介に向けて限りなく殺意に近い怒気を滲ませた朱雀が割って入った。

『朱雀…「う、う〜ん。あれ?ここは」気がつかれましたか?』

そして最悪のタイミングで龍之介が目覚めた。

『起きられますか?まだ気分が悪いようでしたら…』

龍之介の目の前にあるのは人外の美貌を持つ金髪碧眼の天一の微笑み。

しかも、後頭部から伝わって来る体温は、どう考えても膝枕されていることを龍之介に自覚させた。

「えっと…も、もう少しこのままでもいいですか?」

まあ、思春期に差し掛かった男の子としては正常な反応だろう。

うん、美人のお姉さんに膝枕されて微笑まれているのだからそれを拒否するはずがない。だが…

ピキッ!

ブチッ!!

周囲の状態がまずかった。部屋の中に鈍いイヤな音が二つ響く。

一つは朱雀が額に青筋を走らせた音。

もう一つは美雪がキレた音だ。

美雪に至っては完全に目がイってしまっている…

『それでは…』

天一がそのままで、と促すのを遮って朱雀は龍之介を天一から引き剥がす。

『美雪と言ったか?これはやる。好きにしろ』

そのまま襟首を掴んで美雪の前に吊り下げた。

「ありがとうございます、朱雀さん。リュウ、さぁ逝こうか」

「え、ええっ?!ちょっ、ミユさん字違うよね?このままだとオレ死んじゃうから!」

バタバタと暴れ出す龍之介を無視して美雪は懐から呪符を取り出した。

「さっき花開院さんからいいものもらったから試してあげるね!」

「ねぇっ、ミユ!?」

美雪は龍之介の首根っこを掴んだまま理事長室のドアへ向かう。

「それでは失礼しました」

バタンッ!

「…ゆら…いったい何を…[ぎぃゃぁぁっ!!!!]…渡したんだ?」

ドアの向こうから凄まじい絶叫が聞こえてきた気がしたが昌彰は敢えて無視して訊ねた。

「ん?護身用の呪符や。素人でも使える奴。例えるなら『三枚のお札』」

民話に出てくる願いを叶えてくれるというお札。それの護身用バージョンと言ったところだろう。

「えっと…護身用ってことは死にはしませんよね?」

雅が心配そうに尋ねる。

龍之介の身を案じたのか、美雪が前科持ちになるのを案じたのかはこの際おいておこう。

「心配せんでええよ。まあ、強めのスタンガンくらいの電流を浴びせかけるだけやから」

あっさりとゆらは答えるがそれでも十分凶悪な気がする…。

「それを三枚?(リュウのやつ、やっぱり死ぬんじゃないのか?)」

零牙も一応友人である龍之介の身を案じずには居られなかった。後書き琥珀「……すみませんでした<(_ _;)>」

昌彰「…はぁ…」

ゆら「なんと言うか…」

昌・ゆ「「呆れてものも言えへんな」」

琥珀「…仰るとおりです。はい」

昌彰「言い訳はいいぞ。活動報告で既にしてるんだから。二度目はくどい」

琥珀「はい…」

ゆら「さて、楽屋ネタはここまでにして本編の話に入ろか?」

昌彰「そうだな…しかしいいのかゆら?呪符をあんな使い方して?」

ゆら「かまへん。婚約者を無下にするような男にはちょうどええ薬や」

琥珀「ちなみに呪符を渡したのは案内してもらった時だよ」

ゆら「そん時に色々話したんや…お、お互いの婚約者の事とか…///」

昌彰「なっ…!?」

琥珀「いや〜、惚気合戦だったねあれは…聞いてるこっちがムズ痒かったよ」

昌彰「…しかし結局前回言った通り戦闘は次話に持ち越しだな」

琥珀「きりのいいところで切ったからね。またミユちゃん×リュウくんオチだけど…」

ゆら「零牙くんの見せ場も用意したってな〜。それと雅ちゃんのも。本格推理委員会《向こう》じゃシリアスまっただ中やし…」

琥珀「頑張ってみるよ…。さて次回はいよいよ今回の事件の核心に迫ります!」

昌彰「いよいよか…」

琥珀「零牙と昌彰―魔術師と陰陽師の前に現れた鬼女の正体とは!?」

ゆら「次回もお楽しみに!」



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