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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第二十六夜 白昼夜 〜交差する探偵と魔術師と陰陽師〜D
「それじゃあ皆さん、明日から夏休みですね〜」

六年六組に幼女《ロリ》教師、小萌先生の声が響いた。

普通なら歓声が上がるところだろうが何故か六組の教室には重い沈黙が…いや殺気が充満していた。

(速水…覚悟はいいな?)(包囲網はすでに完成している…逃がしはしない…)((((コロス…!!))))

「先生、ものすごい寒気がするので早退していいですか?」

その殺意の対象、速水零牙はさすがに冷や汗を流しながらこの場から逃れようとしたが…

「ダメですよ〜。零牙ちゃん、今にも全力疾走できそうじゃないですか。むしろ先生が心配なのはリュウくんの方なのですよ」

小萌先生は零牙の申し出を即座に却下した。そしてむしろ零牙の後ろの席に座っている龍之介を気遣う。

「そういやどうしたんだ?リュウ」

いつもならば殺気を放っているFFF団の先頭にいるはずの龍之介が今日はいやに大人しい。

むしろ顔色も悪く目の下にははっきりとした隈が見て取れた。

左腕には何故か白い包帯が巻かれている。

「いや…ちょっとな…。なあ零牙、お前たちは例の不審者を追ってるん…人の話はちゃんと聞けよ…」

零牙は龍之介の話の最中に欠伸を噛み殺していた。

「いや悪い…昨日は夜遅くまでミアと学校に残っていたからな…」

ジャキンッ!!ジャラッ!!

静かな教室に二種類の金属音が響いた。

一つはSMG《サブマシンガン》にマガジンを装着する音。

もう一つは鎖鎌の分銅を引きずりだした音だ。

「大体いくら深夜にしか出ないからといって生徒を遅くまで校舎に残らせるのも…」

「レイ…お前な…少しは場所を考えようや?」

そこで零牙はようやく気付く。クラスの男子全員(FFF団)が自分の周囲をぐるりと取り囲んでいることに。

「い、いや!委員会で残ってただけだ!ちゃんと先生や先輩達も一緒だった!!」

必死でいい逃れようとする零牙だったが…

『ピンポンパンポ〜ン。零牙くん!雅ちゃん!今日も理事長室に集合よ!昨夜二人っきりの時に起きたこと、詳しく話してもらうからね!!』

まさに地獄からの呼び出し音によって零牙の目論見は砕かれた。というかピンポンパンポンってわざわざ口で言うのか?

「ええっと…」

零牙はなんとか逃れる道を探した。だが…

(((((コ・ロ・ス…!)))))

周囲を囲むのは視線に殺気を漲らせたFFF団。ある者の手にはSMG。ある者の手には鎖鎌。

「み、皆さん少し落ち着いてくださいなのですよ〜」

小萌先生が必死で留めようとするも体格で勝るメンバーを止められるはずもなく…

「どいてください先生…」「漢《おとこ》にはやらねばならない時があるのです…」

言ってることは男らしいが嫉妬に狂ったFFF団のどす黒いオーラが零牙をぐるりと取り囲む。

「くっ…こうなったら!」

零牙の手元で強烈な光が発生する。

光蟲と素材玉を調合してできるアイテム、閃○玉だ。

「うわっ!?」「眩しっ!?」

強烈な閃光はFFF団の目を眩ませる。

「くそっ!!速水のやつどこに行った!?」

FFF団が視力を取り戻した時には既に零牙の姿はなく…

「逃がすな!追えっ!!」

「「「「イェッサー!!」」」」

どす黒い負のオーラを纏い、夜叉と化したFFF団は黒い波となって教室から飛び出して行った。

「レイッ!」

「ダメだよ?」

追われる彼氏を追いかけようとした雅だったがガクンと後ろから引き留められた。

「ね〜ミアちゃん」

「昨日の事…私達にも詳しく聞かせてもらえるかな?」

そこにいるのは美咲と杏子を筆頭にしたクラス女子全員だった。

「えっと…そ、その…」

「はいはいこっち行こうね〜」

顔を赤くして言い淀む雅の両腕を捕まえ、クラスの女子全員がぞろぞろと移動を開始した。

「レ…レイ(とあざみ先生の)バカァ〜〜!!」

雅は思わず不用意な言葉を漏らした恋人(と余計な放送を入れた顧問)に悲痛な叫びを上げるのだった。

††††

―同時刻―

「着いた…。ここが…」

「不知木町…」

二人の陰陽師が不知木町に降り立った。

「「特に何もないな(あらへんね)…」」

昌彰とゆらの第一印象はそれだった。

浮世絵町も名物になるようなものはないが、不知木町も同様だ。

「でも霊脈の流れはそれなりにあるな…」

「雰囲気的には布留部市に似てるかもしれへんね…」

そう言いながら二人は駅員の人に聞いた道筋を辿る。

「あ、アレと違う?」

ゆらが指差した先にあったのは一軒の居酒屋だった。

和風の外観はどこか京都の料亭を思わせる店構えだ。

「『なにわ屋』…となるとその二軒隣が修さんの家で、その向かい側が…」

ピンポーン

表札にある速水の文字を確認して昌彰は呼び鈴を押した。

「は〜いどちら様ですか〜」

家の中から聞こえてきたのは零牙ではなく少女の声。

パタパタと廊下を走る音が聞こえて黒の修道服を翻したショートカットの茶髪のシスターが出てきた。

「えっと…速水零牙くんを訪ねてきたんだけど…キミは?」

出てきたのが零牙ではないことに些か動揺しながら昌彰は聞き返した。

「あっ!もしかして安藤さんと花開院さんですか?お兄ちゃんから話は聞いてます!」

少女は目を輝かせてそう言った。

「お兄ちゃん?零牙くんに妹がおったん?」

ゆらが驚いて目を丸くするが、昌彰も初耳である。(※注.番外編での接触は無視する方針でお願いします)

「あ、はい!私、姫野真優って言います!お兄ちゃんの妹です!!」

少女は元気よくそう言ってぺこりと頭を下げる。

「そっか…初めまして真優ちゃん、もう知ってると思うけど花開院ゆらです」

「俺の事も知ってるみたいだね。安藤昌彰、ゆらの義兄だ」

昌彰とゆらも簡単な自己紹介を済ませた。

「それで真優ちゃん。零牙くんは今どこにおるん?」

「お兄ちゃんならまだ学校にいると思いますよ?本格なんとか委員会の集合がかかったとかで」

「ああ、確か…本格推理委員会かな?」

「そう、それです!昨日も夜中まで帰って来なかったんですよ!空腹の妹をほったらかして…」

真優は頬を膨らませながらそう言う。特に後半は完全に恨み言になっていた。

「そうか…」

真優のその言葉に昌彰は昨日の電話を思い出した。

「お兄ちゃん…」

「ああ…。真優ちゃん、木ノ花学園までの道を教えてくれるかな?」

††††

「ううっ…ミア〜そろそろ勘弁…」

「レイ…あと五分我慢してね!」

にっこりと笑って雅は罰の延長を言い渡した。

ちなみに罰とは古式ゆかしく正座である。しかも膝の上には重石付きの。

「零牙くん…羨ましい…」

「ええな〜零牙くん…」

しかしそんな零牙を菜摘と椎(ロリコンの二人)は羨ましげに見ていた。

「……」

それに対して零牙は何も言い返さない。いや、言い返せない。実際に喜んでしまっているのだから。

別に零牙がMという訳ではない。問題は膝の上に乗っている重石だ。

「♪〜」

至福の表情を浮かべながら雅は零牙の胸に(・・・・・)背を預ける。

そう。零牙の膝の上に乗っている重石とは雅自身。何も知らない他人が見れば恋人同士がいちゃついているようにしか見えない。

「二人ともそのままの姿勢でいいから聞いてね。まずは昨日の状況を報告するから」

あざみ先生はそんな雅と零牙を余所に部屋に積まれた本の奥からホワイトボードを引っ張り出してきた。

「鈴ちゃんお願いね」

あざみ先生からペンを受け取った鈴音がすらすらと昨日の現場である初等部の校舎の見取り図を描いていく。

「すご…」

その正確さに零牙は思わず呟いた。自らの瞬間記憶能力を使ったとしてもこうも正確に書くのは難しい。

さらには防犯カメラの位置も描き込んであった。

「ここが昨日、零牙くん達がいた場所」

そう言いながらあざみ先生は零牙と雅の顔が描かれたマグネットを二階の南校舎の廊下に張り付ける。

「椎ちゃんと修くんはここで、鈴ちゃんと菜っちゃんがここね」

さらにあざみ先生は四つのマグネットを北校舎の四階廊下と一階の昇降口に張り付ける。

「そして不審者が現れたのがここ」

最後に二階の東側の渡り廊下に鬼の形をしたマグネットが張りついた。

「で、ここからが再現。みんなあの時の動きをこれで再現してみて」

そう言われてまずは菜摘が自分達のマグネットを動かす。

「あざみちゃんから指示を受けて私たちはすぐにそっちに向かったわ」

菜摘達は南校舎一階の廊下を抜けて東側の階段下へ。

「俺たちは北校舎の四階にいたからな。東の渡り廊下を渡ってそのまま階段を下りてきた」

次に修が東側の三階へと自分達のマグネットを動かした。

これで階段は上下ともに物理的に塞いだわけだ。

「この間に不審者は南校舎の方へ移動。渡り廊下の防犯カメラから外れた後、何故か二階の防犯カメラは全て映らなくなった」

あざみ先生が鬼のマグネットを動かし、零牙達の方を向き直った。

「俺たちは二階に行こうとしたけど、何故か行けなかった。三階から階段を下りても何故か直接一階に着いちまったんだ」

「私達も同じだよ」

修と鈴音達も零牙達の方を向いた。

全員がこの事態が常識で測れないと感じ取っていた。

「あれは…」コンコンッ

零牙が話そうとした出鼻をくじくように理事長室の扉がノックされた。

「んもう…こんな時に…鈴ちゃん出て。『作戦会議中』ってプレートでも作ってかけておこうかしら…」

ぶつくさと文句を言うあざみ先生を尻目に鈴音が理事長室のドアを開けた。

そこにいたのは…

「リュウ?なんでここに…」

先程教室で一人取り残されていた龍之介がいた。些か真剣な面持ちなのが気になるが…

さすがにこうなると雅も零牙の膝から降りた。

零牙は血が通い出して痺れる脚に顔を顰めながらも立ち上がる。

「ああ…零牙…いや、本格推理委員会に依頼があって来ました」

そう言って龍之介は深々と頭を下げた。

「ちょ…えっと早川くん?顔を上げて!」

普段と違う龍之介の真剣な様子に戸惑ったように鈴音は声をかける。

「リュウくん。悪いけど今、厄介な案件を抱えてるの…その後で構わな「それに関係あることだとしたらどうです?」…話してもらえるかしら?」

あざみ先生の言葉を遮った龍之介の台詞に全員の顔つきが変わった。

「実は…」

龍之介の話を要約するとこうだ。

今から十日ほど前、正確には学園内で鬼女が目撃されるようになった日から、龍之介の部屋にも似たような女が現れるという。

最初の方こそ窓の外にいたのだが、ここ数日は室内に出るようになった。

「昨日に至っては…」

そう言いながら龍之介は左腕に巻かれた包帯を解いた。

「「「「「「「!?」」」」」」

零牙を除く本格推理委員会のメンバーは思わず息をのんだ。

その腕には手の跡とはっきりと分かるほど痣が残されていたからだ。

(マズイな…)

零牙は一人心の中で呟いた。

『呪詛』…昨日昌彰から伝えられた言葉が現実味を帯びてきたのだ。

仮にこの呪詛が龍之介に向けられたものでその余波が学園内にも及んでいるとしたら…

(オレだけじゃ手に負えないかもしれない…)

コンコンッ

零牙が思考の海に沈もうとしたところで再び理事長室のドアがノックされた。

「…なんで今日に限ってこんなに来客が多いのかしら…鈴ちゃん、関係ない人だったらちゃんと断ってね」

「は…はぁ…」

気の弱い鈴音に無理な注文をするあざみ先生。

再び開いた理事長室のドア。そこに立っていたのはあざみ先生の期待を裏切り、この事件の関係者たる人物達であった。

「失礼します。えっと、こちらに速水零牙くんがいると聞いて来たんですが…」

「昌彰さん!もう来れたんですか!?」

零牙は一瞬驚いた表情を浮かべたが即座に満面の笑みを浮かべた。

この状況で最も頼りとなる人物の登場に喜びを隠せない。到着は明日の予定だったから喜びも大きい。

「久しぶりだな零牙。それと雅ちゃんに修さんも」

昌彰は零牙と雅を見つけて笑いかけるとその後ろにいる修にも頭を下げた。

「こちらこそ!ゆらちゃんも元気だった?」

雅も昌彰の後ろにゆらがいるのを見とめて駆け寄っていく。

久しぶりの再会を喜ぶゆらと雅。そしてそれをニヤけながら見ている三人組とそのうちの一人に忍び寄る黒髪の少女…

「リュウ…なんでこんなところにいるの…?」

「…ハッ!?何でミユがここ…「フンッ!」…グハッ!?」

ゴキュリッと、明らかに人間の首から聞こえたらまずいような音がして、リュウの意識は闇に沈んだ。
琥珀「再び遅くなってしまいまして申し訳ありません!!」

昌彰「初っ端から謝罪でスタートか…」

琥珀「ホントにごめんなさい!肉体の疲労にスランプも重なり…正直全然筆が進みませんでした!」

昌彰「はい、言い訳はそこまで。本編の話に入ろうか」

琥珀「はい…。ようやく不知木町に行けたね!」

昌彰「お前がさっさと書かないからだろうが…」

琥珀「仰るとおりです…あ、それと…今日のゲストは零牙くんではなく…」

美雪「どうも。ゲストで呼ばれた白石美雪です」

昌彰「ようこそ美雪ちゃん。ってなんで?零牙は?」

琥珀「あそこ…」

雅「♪〜」

零牙(辛い…。理性が…)

昌彰「まだお仕置き終わってなかったんだ…」

琥珀「そう言うこと。それに理事長室までキミたちを案内したのは彼女なんだし」

昌彰「それはわかってるが、きちんと説明しとかないと読者のみなさんには唐突過ぎる登場だぞ?」

琥珀「ん、詳しく言うと教室訊ねたら誰もいなくて、たまたまいた隣のクラスの美雪ちゃんが道案内を買って出たって流れ。美雪ちゃんもこの後本編に絡んでくるから」

美雪「ミアはけっこうイベントが多いみたいですけど私は?」

琥珀「ん〜と、痴話げんか?みたいなのが多いかな?でも雅ちゃんより先にメインイベントが起こるよ?」

美雪「メインイベントって?」

琥珀「それはお楽しみ。でも美雪ちゃんは影のヒロインみたいになるかも」

美雪「楽しみにしてます。リュウも楽しみだよね?」

龍之介「………」

琥珀「リュウくんは未だに気絶中か…。それと明日は…」

昌彰「間に合うのか?」

琥珀「努力する…。次話は企画です!それではまた明日お会いしましょう!」

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