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ぬらりひょんの孫 〜天狐の血を継ぐ陰陽師〜
第二十五夜 白昼夜 〜交差する探偵と魔術師と陰陽師〜C
††††

『零牙くん準備はいい?ミアちゃんをしっかり護るんだよ?』

無線越しに菜摘の声が聞こえてくる。

「言われなくてもわかってますよ」

今零牙と雅は初等部の校舎にいた。場所は二階の教室廊下の中ほどだ。

『何かあったらすぐにあざみ先生に連絡するんだよ?』

不審者の確保という荒事になる可能性があるため、今回は二人一組、武闘派とそれ以外が組む形で作戦にあたる。

チーム分けは、委員長と菜摘。当然ながらこのようなおいしいシチュエーションで菜摘が鈴音を手放すわけがない。

二人は退路を塞ぐという意味で一階の昇降口付近に控えている。

『なんでウチはこんな時に修なんかと…』

『静かにしろ椎。それは俺の台詞だ。たぶんお前の世話役だからだろうが…』

続いて椎と修の幼馴染コンビ。こちらは零牙のサポートとして三階や四階を巡回している。

椎は雅や梢と組めずに不満全開だが…

『修さん、お姉ちゃんをよろしくお願いしますね』

本来なら梢も入るはずだったが、特に武闘派でない修に二人は荷が重いと判断してあざみ先生が梢を引き受けた。

シスコンでもある椎は断固として反対していたが…

ちなみにあざみ先生と梢は守衛室にいる。防犯カメラからの映像をリアルタイムで確認し、零牙達へ伝える所謂オペレーターだ。

『今のところ不審な点はないわ。みんな気を緩めないでね』

時計の針は既に深夜二時を指そうとしている。

零牙達の背後にある非常口の誘導灯の緑色の光が二人の影を廊下に細く伸ばしていた。

「レイ…大丈夫だよね?」

雅は不安げに手に持った懐中電灯をあちこちに向けている。

「大丈夫だミア。オレがついてる。信用できないか?」

「ううん、そうじゃないよ…ただレイが怪我しないかが心配で…」

(!うう…そんな顔で見つめないでくれミア…ああ、なんでこんな時にカメラがないいんだ!?)

零牙が表面上は冷静に、しかし心の中では激しく悶えていた。

暗闇の中でもはっきりと分かるほどの桃色の空気が辺りに満ちる。

『おい零牙…こんな時にいちゃつくな…』

無線から修の呆れたような声が入る。

無線は常時通話状態になっているわけではないのでおそらくは椎の勘で察知して釘を刺してきたのだろう。

「べ、別にいちゃついてなんか…」

『三人とも、そこまでよ。…出たわ』

雅の弁解を遮ったあざみ先生の言葉に零牙の纏う空気が変わった。

『場所は東側の渡り廊下の二階。話にあった通り白い着物姿よ』

位置情報を把握した零牙は即座に駆けだす。

「待ってレイ!」

雅も置いてかれないように慌てて追いかける。

「っ!?(なんだこの気配は…)」

だが零牙は突如として足を止めた。まだ相手の姿は見えない。だが…

『対象が移動。零牙くんたちのいる南校舎へ向かってるわ!修くんと椎ちゃんは援護に!』

『委員長と菜摘先輩は階段を抑えてください!』

『『了解!』』

あざみ先生と梢からそれぞれ指示が飛ぶ。

しかし委員長と菜摘のいる昇降口は西側、タイミング悪く修達も四階の北校舎にいた。到着までには多少時間がある。

スッ、と逆刃刀の柄に手をかけた零牙と雅の足下に黒影が伸びた。

「来たか…」

誘導灯の緑の光源を背後にした人影は逆光のせいで顔が見えない。だが…その頭には、二本の角らしきものが生えていた。

「ひゃっ…!?」

雅は手にしていた懐中電灯を取り落とした。光を向けた先に浮かび上がった鬼の仮面に驚いて。

風も無いのに鬼女の不自然なまでに闇と同化した黒髪がうねる。

(こいつは…ヤバい…)

零牙は今までにないような圧力を感じていた。

鬼女の放つ気配が歴戦の魔術師である零牙さえも威圧しているのだ。

ミアは腰が抜けたのか声も出せずにへたり込んでしまっていた。

††††

「修!急ぎい!!」

「言われんでも分かってる!!」

何気に運動神経のいい椎が雅に対する想い(執着)も加わって修を引きずるようにして階段を駆け下りていた。

「はよせな!いくら零牙くんがおるゆうても二人とも小学生なんよ!」

二階分の階段を駆け降りた椎は最後の数段を飛び下りるようにして廊下へと降り立った。

「へ?」

「な、なんで二人がここにいるの?」

椎と修の目の前には菜摘と鈴音がいたのだが、二人とも驚いた表情で固まっていた。

「どうしたんですか二人とも?早くミアたちのところへ…」

そう言って廊下を見て修は気付いた。

「椎、ここ一階だぞ…」

「んなアホな!?確かにウチらは四階から二階に下りたはず…」

椎も慌ててあたりを見渡すが、窓の外に広がっている景色は間違いなく一階のもので…

修と椎は言葉も無く再び階段を駆け上がった。

今度は鈴音と菜摘も一緒に。だが…

「え!?」

「どうなってるの!?」

階段を駆け上がった四人の目の前に広がるのは二階ではなく三階の景色。

「あざみちゃん!二階の!雅ちゃん達の様子はどうなってるの!?」

菜摘が無線に向かって叫ぶ。

『ダメ!さっきから二階の監視カメラが全て映らなくなったのよ!』

だが返って来たのは無情にも監視カメラが機能しなくなったという事実だった。

††††

(何だって言うんだこいつ…)

零牙は逆刃刀の鯉口を切りながら目の前の鬼女を睨みつける。

今まで幾多の霊魂を見てきたが、そのどれとも違う。

一番近いのは先日の浮世絵町でみた妖怪たちだが、それとは根源的に何かが違う。

『我…を……』

耳障りな声で鬼女が何かを呟く。はっきりとは聞こえないが

言うならば本能的な畏怖…。

それを振り払うかのように零牙は抜刀しながら前に出た。

一瞬で間合いを詰め、八メートルほどの距離を零にし、その勢いのままに逆刃刀で相手の胴体を薙ぎ払う。

人間では避けることさえ不可能な一撃。その一閃は確実に相手を捉えたはずだった。

「なっ!?」

零牙が驚愕の声を上げる。逆刃刀が打ち込まれる寸前、鬼女の姿が掻き消えたのだ。

標的を失って零牙の一撃は空を斬る。

(チッ!一体どこに…)「レイッ!」

首だけで振り返った零牙の視界に雅とその目の前に立つ先程の鬼女の姿が映った。

「ミアッ!?」

零牙は即座に抜き身の逆刃刀を鬼女に向けて投擲しようとした。だが…

(ッ!ダメだ…)

鬼女はちょうど零牙と雅の直線上にいる。このまま逆刃刀を投げて、また消えられれば逆刃刀は雅へと向かうことになる。

(なら…!)

零牙は踏み込んだ脚に再び力を込める。力のベクトルを反対方向へ向けるために脚の筋肉が悲鳴を上げた。

鬼女が雅へとその手を伸ばす。

(させ…るかぁ!!)

零牙の白い髪が一瞬、ほんの一瞬だけ漆黒に染まった。両眼にも一瞬だけ紅い光が宿る。

―――

(え!?)

雅はいきなり目の前に現れた鬼女の存在に瞠目した。

さきほどまで零牙の前にいたはずだ。それが今は自分の目の前にいる。

「レイッ!」

雅は零牙の名を叫んだ。

『我を…目覚めさせた…のは…』

耳障りな声が雅の耳朶を打つ。

白い着物を纏った鬼女の腕が雅の首元へと伸ばされた。

「ミアッ!」

恐怖に揺らぐ雅の視界に映ったのは鬼女の左肩から右脇腹を切り裂いた逆刃刀。

その一瞬後には雅は零牙に抱えられ、さらに後ろへと飛びのいていた。

『我………せた…はお…か…』

その言葉を最後に、上体を両断された鬼女は塵となるように消え失せた。

「レイ…今の…なに?」

目の前でヒトが斬られ、さらにそれが消失すると言った事態に雅は半ば茫然となりながらも零牙に尋ねる。

「分からない…」

直接相対したものの零牙の目を以てしても相手の正確な正体は見抜けなかった。

零牙はゆっくりと膝を折ると、雅を下ろし、そのまま両手を着いて荒い息を繰り返した。

「でもあれは…人間じゃない」

正体こそ分からなかったが確実に人外のものであることは断定できた。

ほんのわずかな時間の接触であったが鬼女の放つ異質な気は零牙に酷い消耗を強いていた。

予定外に『肉体強化《ルシフェル》』の魔術を用いたのも堪えたのだろう…

「大丈夫?レイ…」

見かねた雅が零牙の頬へと手を伸ばした。

そこへ背後と正面からこちらへと駆けてくる足音が聞こえた。

「ミア!零牙!大丈…」

「ミアちゃん大丈夫やっ…」

「二人とも一体何が…」

「ミアちゃん無事…」

委員会の先輩四名が二人を心配して(うち二名はミアの方に重心が行ってるが)駆け付けたのだ。

だが四人は零牙と雅の姿を見ると完全にその場に凍りついた。

「どうしたんですか?」

零牙の言葉にいち早く我を取り戻した鈴音が暗闇でも分かるほどに顔をしながら言う。

「ふ、二人とも一体な、何があったの?」

その言葉に零牙と雅は改めて自分達の状態を確認した。

雅…へたり込んでいたところを抱えあげられたため、上着のボタンの下側数個が外れている。
しかもお姫様抱っこでそのまま床に降ろされたので若干服が上にずり上がっている。

零牙…(戦闘によって)息も荒く、雅の脇に両手を上にのしかかっているような状態。
しかも頬には雅の右手が添えられている。

傍から見たら零牙が雅を押し倒そうとしているような状態だったりするわけだ。

「「!?!?!?!?」」

冷静に分析したところでようやく自分達がどのような体勢でいるのか認識した二人は慌てて離れようとした。

「うわっ!?」「きゃっ!?」

だが、双方が慌てていたためか雅の左手は零牙の右腕を払うような形になり、零牙は雅の上へ倒れ込んだ。

その結果…

ピキッ!!

何かが斬れるような音の三重奏が零牙の鼓膜を揺らした。

「零牙…たしかに付き合うのは認めたが…」

「零牙くん…それ以上はあかんで?」

「雅ちゃんに対してそんなことして…」

修《シスコン》と椎と菜摘(ロリコン×2)が笑顔を浮かべる。

三人の放つ負のオーラは先程の鬼女の比ではない。

唯一冷静な委員長はその三人の気迫に呑まれてオロオロするばかりで援護は見込めそうにない。

雅は煙が噴きでるんじゃないかと言うほど顔を真っ赤にして何やら呟いているしで…

速水零牙…孤立無援の状態である。

「ま、待った!!これは事故…」

「「「問答無用!!」」」

「俺は無実だ〜〜〜〜!!!」後書き琥珀「さて…ようやく前振り部分が終わったかな?」

昌彰「いよいよ次話は不知木町へ行くんだな?」

琥珀「予定ではね。そういえば零牙くんは?」

昌彰「あっち…↓」

修「待て零牙!」
椎「大人しく捕まりい!」
菜摘「ミアちゃんを押し倒したりして!」
椎&菜摘(羨ましい!!)

琥珀「……なんか若干私怨というか羨望というか嫉妬が見え隠れするんだがいいのか?」

昌彰「たぶん大丈夫なんじゃないか?零牙もFFF団で慣れてるだろうし…」

琥珀「もし今回の事がばれたりしたら…」

昌彰「想像したくないな…」

琥珀「それはそうと昌彰くん。またゲスト出演で『本格推理委員会』に出てるね」

昌彰「ああ、向こうは只今絶賛戦闘中だからな」

琥珀「夢幻さんもありがとうございます!」

昌彰「お前も続きを早く書け…」

琥珀「夏休みも終盤に差し掛かってるからね。書けるうちに書いとかないと。それでは読者の皆様、読んでいただきありがとうございます!」

昌彰「次回はいよいよ舞台が不知木町に移ります。ようやくだよ…」

琥珀「それでは次回も楽しんで頂けるように頑張りたいと思います!それでは!」


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あきゅろす。
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