世は事もなし 泰之丞が家を出る時、紗依は正月事始めで大掃除をすると息巻いていた。 しかし、帰宅してみると、紗依は部屋の隅で蹲っている。 彼の帰宅も気付かせないほどのものがあっただろうか? 泰之丞が首を捻りながら覗き込むと、彼のコレクションのうちの一冊だった。 広げられたページには二足歩行のトカゲのような生物が描かれている。 「それはチュパカブラという南米の吸血UMA」 「え、棒さん!?」 いないと思っていた人物に声をかけられ、紗依は驚いて顔を上げた。 慌てて周囲を見回し、途端に青冷める。 「世の不思議を知りたいと思うのは人の常」 気にするなという様に棒はそっと紗依の頬を撫でた。 姉様被りの紗依は申し訳なさそうに長いまつ毛を伏せる。 「棒さんの好きなもの、少しだけ知りたかったの」 好いた相手にそう言われ、喜ばない者がいるだろうか。 日頃、理解を示す者の少ない泰之丞は尚のこと喜んだ。 本の山の中から何冊か取り出し、紗依の前に広げる。 紗依はしまったと思ったが、時既に遅し。 棒先生は楽しそうに講義を始めた。 こうなったら、滅多なことでは止まらない。 小さくため息を吐きながら、紗依は棒先生の高説に耳を傾けるのだった。 終わり ヒデさんの誕生日に合わせるはずが、全然間に合ってないorz ちなみにチュパカブラは相方の趣味(笑) [前頁][次頁] |