恋する下剋上!
みょうじなまえさん。
3年生で跡部部長の彼女。
そして俺の――片思いの人。
「景吾今日も部活でしょ?」
「先帰るか?」
「ううん、待ってる」
「悪いな」
「いーよ」
チュ
「ん、頑張ってね」
「あぁ、行ってくる」
公認カップルだからいちゃついてたって何も言われない。
目の前でキスしてるのを何回見たことか。
「クソクソっ、見せ付けてくれるよな!あいつら!」
「……いい迷惑、ですよね」
いつからだろうか、あの人しか見れなくなったのは……
気付けば目で追ってしまう自分がいる。
部長の彼女と知りながらもだんだんと膨らんでいくこの想い。どこにもぶつけることのできない煩わしさ。
「日吉くん」
「!、はい」
「どうしたの?ボーッとして。珍しいね」
「なんでもないですよ。考え事です」
「そう?あ、ドリンクいる?」
「あ、はい」
あなたのことを考えていました、なんてクサイ台詞を言えたもんじゃない。内心ドキドキしながらも、苦笑いするので精一杯だった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
みょうじ先輩がたまに作ってくれるドリンク。
先輩たちレギュラーでさえ滅多に飲むことの出来ないものを、準レギュラーの俺が飲むのは貴重なことだ。
「日吉くんてさ、」
「はい」
「わたしのこと大好きだよね」
「っ!!」
ドリンクを思わず吹き出すところだったのを無理矢理飲み込む……が気管に入ってむせる俺。正直ダサい。
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫?」
「ケホッ……な、で…?」
「ん?」
酸素が足りなくてうまく喋れない。深呼吸してもう一度。
「ハァ、なんで…わかったんですか…?」
俺はみょうじ先輩の目を見て問う。先輩は含みのある笑みを浮かべながら答えた。
「んー、インサイト……かな」
恋する下剋上!
クスリ、と笑うこの人に俺は敵わないな、と思った。
(俺、諦めませんから覚悟しといてください)
(どんな下剋上か楽しみにしてるね)
090719
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