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あなただけのお姫様


あまりにも私たちの別れは突然過ぎた。


高校を卒業し、附属の大学へ進学すると共に決まったわたしの婚約話。

相手側は父の会社と契約を結んだ大きな財閥。政略結婚みたいなものだった。





「……婚、約」

「うん」

「そっか」

「今までありがとね、周助」

「いや、こちらこそ」

「……」






わたしには付き合ってる人がいる……いや、これも今わたしから一方的に終わらせようとしているところ。


いつかは結婚しようとこの間話していた矢先のことだからお互いにショックが大きい。


でも周助は――不二周助はこの事実を受け入れてくれた。





「その婚約者、て」

「財閥の一人息子だよ」

「……跡部か」

「…よくわかったね」





遠回しに言ったつもりなのに「ここらへんに財閥なんてそうそうないよ」なんて言われてしまった。本当は気付かせたくなかったのに。



RRRRR



悲しげな、しんとした冷たい空気を打ち破ったのはあの人からの電話だった。





「ごめんね、……はい」

『なまえ、このあとうちで婚約について詳細を決めることになった。30分後に家に迎えに行く』

「……わかりました」

『………はっきりさせてこいよ?』

「…うん」




ピ





あの人はわたしにちゃんと話し合ってこいって言ってくれた。そのために会うのを許してくれた。そのために時間をくれた。


口数は少ないし、まだよくわからない人だけど、優しい人だってことはすぐにわかったつもり。





「ごめんね、用事入っちゃった」

「ううん、いいんだ。最後に会えただけでもうれしいよ」

「周助……」




コツン





今までみたいに寄り添うように抱きしめあって、周助の額がわたしのそれにそっとくっついた。


これも最後なんだって思ったら胸に熱いものが込み上げてくる。





「なまえ、」

「ん?」

「もっとたくさん幸せになってね」












(うん…ありがとう)
(じゃないと僕がさらいにいくから)
(ふふ、周助ならやりそうね)


(…さぁ、いってらっしゃい。お姫様)



わたしに温もりを残して優しく離れていったあなた。もう二度と振り返ることはない。




――ありがとう周助、ずっとずっと大好きだよ…




家に帰る車の中でわたしは静かに涙を流した。








090627


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