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3.雨


「雨は、冷たくないですか?」


我ながら馬鹿げた質問だと思った。
雨が冷たくない訳がない。
しんしんと冷える冬は過ぎたとはいえ、容赦なく降り続ける雨は彼ばかりではなく自分の体温も確実に奪っている。

彼は驚いたように目を見開き固まっていた。
何か言おうとしているのか僅かに唇が動く。
しかし、暫く待てどもその唇から言葉が発せられる事はなかった。


「行くところがないならうちに来ますか?」


するりと出た言葉は自分でも予想外なものだった。

嗚呼、俺はどうしてしまったんだろう。

じっと彼の反応を伺ってある間、胸の中をよくわからないものがグルグル渦巻いていた。しかし、そのなんともいえない感覚に反して頭は妙にすっきりしており冷静に振る舞える自分がいる。

彼は相変わらず言葉を噤むことはなかった。
けれど、僅かにその頭がこちらに傾き肯定の意を示す。


「部屋に着いたら暖かいお茶でも出しますよ」


彼の手を引き歩き出す。

その手は信じられないくらい冷たかった。


060417


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