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1.彼
彼の定位置は部屋の隅に置かれた一人掛けのソファ。
それはこのアパートの一室に越してきた当初、物が無くガラリとした様子を目にした友人からのプレゼントだった。
彼はそのソファに深く腰掛け、一日中本を読んでいた。時折窓の外を眺めるほかは、ただ黙々と。
しかし幾日かすると家にある本をあらかた読み上げてしまったのか、じっと目を閉じ黙想をするようになった。
その姿はまるで人形のようだと思う。
整った顔立ちからは生の気配を感じず、手を触れたら冷たいのではないかと思わせるくらいだ。
そのため、つい何度も様子を見にきてしまう。その胸が規則正しく動くのを確認しては安堵の溜め息を吐いた。
060410
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