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クレハテルツレヅレ
末姫と北の方20

食い込むは、太い糸である。



そこはとても暗く、所々に置かれた灯りが僅かに闇を蝕み、岩肌と沢山の巨大な蜘蛛の巣を照らし出している。故に広い洞穴であり、また、蜘蛛の糸にて絡み捕られ巣へと吊された亜美の眼前にて、口元に張り付いた笑みを浮かべる異形へと姿を変えた女主人の巣だと知れた。

亜美は湧き上がる恐怖に負けじと、おぞましき異形を睨み付けるのである。

青白い肌の女主人の上半身が、紫の巨大な蜘蛛の頭からにょきりと生えており、その顔には八つの赤い目が宝玉の様に妖しく輝いている。そして目を女主人の腰から下にやれば、蜘蛛の巨大な顎が時折、牙を擦り合わせ、太く耳障りで不気味な音を鳴らし涎を垂らすのであった。

「直ぐにでも、食べてしまいたくなる程美しく気高い娘であらせられる…。されど、この先。また何時獲物にありつけるか分からぬ故。お姫様と、幾人かは少しずつ分けて食べさせて頂きまする」
「くっ……」

そう言うと異形は、舌を伸ばし亜美の頬をぺろりと一舐めするのである。

「くっくっくっ……。真に気高き女にあらせられるなぁ?
私、涎が止まりませぬ」

そう言い、異形は身を翻す。その足元には、涎が水溜まりをなしている。

「このままでは、我慢出来ずに喰ろうてしまいます。なれば、少しの間気を落ち着けてまいります故。
経基様。あの御方様はどうやら、私の大切な子を殺めて仕舞われた御様子。今から出向き、ばらばらにしてから喰ろうてやります」

異形のその言葉に、亜美の顔色がさっと変わるのでる。
待てと異形に声を発するも、異形は口元をいやらしく歪め喉の奥で笑うと、亜美の下から去って行くのであった。




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あきゅろす。
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