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クレハテルツレヅレ
末姫と北の方17

あわやと言う処である。

騨っ!!と強い踏み込みの音が響き、びょうっと空を裂き一閃、刃が走る。

目の前に迫っていた蜘蛛が数匹千切れ飛び散り、異形が仰け反る。次いで月は襟首を強く引かれて、勢い良く後ろへと数歩分下げられたのである。

「…っ!?」

そして、腕の中にどさりと押し付けられたのは赤子。満仲である。

「だああああああっ!!」

気合い一声。月と異形の間へと割って入った経基は更に一閃、二閃と刃を振るう。

「殿っ!?」
「月、下ごうておれ!」

刃が振るわれる度に、蜘蛛は散り、異形も怯むのだが、倒れる様子は見えぬ。
故に、これは一先ずと、経基は退く事にするのである。

「くわせ…ろぉぉおおおぉ…」
「御免被るわっ!」

異形を牽制する経基に、月は逃げる様に促されるも、抜けた腰は全く言うことを聞かぬのである。

「何をしておるか!!」

見かねて振り向き怒鳴る経基に隙ありやと、異形が塊を口の様に開き、経基の頭を喰い千切らんとする。
間一髪。なんとか避けた経基であるが、体制を崩し、異形の足許へと倒れ込んでしまう。

「経基様あああっ!?」

異形は足を踏ん張り、塊を蛇の首の様にもたげ、これを好機と一気に喰らい着かんとして塊を振り下ろす。

逸れを更に転がり経基は身をかわす。

鈍っ!!

塊は思い切り床に叩き付けられ、蜘蛛がざわあっと辺りに散るのだが、直ぐにまた一つの塊へと戻るのである。

この遣り取りで、位置は変わり、経基と月の間に異形と言う形となる。

刹那の逡巡。異形は素早い経基を一先ず諦めた様子で、おぞましい光景に未だ動けぬ月へと塊を向けるのであった。




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