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クレハテルツレヅレ
末姫と北の方10

出されたのは白湯である。

強者は白湯を一口、口に含むとゆっくりと飲み下し、ほぅ…っと深く安堵の息を吐いたのである。武蔵の経基の屋敷からの切り結び、殆ど休む間もなく雪の残る険しい道を歩いて来たのである。建物の中、腰を落ち着け飲む白湯は格別に旨かったのであった。

直ぐに湯飲みを空けてしまったのだが、屋敷の若い娘が直ぐに傍らにかしづき、強者の湯飲みへと替わりを注ぐのである。

すまぬと一言返せば、娘は顔を伏せ目がちに、いいえと応える。
良く見ればこの娘。とても美しく、それに気付いた強者は頬を染め、目をあらぬ方へと向けるのである。

「どうか……なされましたか?」

そんな強者に娘は小首を傾げた。

鈴……。

鈴の音である。
その音に何気に強者が振り向けば、娘の手首に紐の付いた紫の鈴が下げられている。

「これは…?」

尋ねる強者に娘は、この屋敷で働く者の印なのだと応えるのである。
言われ、強者が辺りを見やれば、確かに屋敷の者達は何処かしらに紫の鈴を下げている様子であった。

「かわっていますよね?
でも……とても良い音なのですよ? ほら……」

そう言うと娘は、きょろきょろとする強者の耳元に鈴を下げた手首を近づけるのである。
美しい白い肌である。
強者はまた気恥ずかしくて、目を逸らす。
仄かに甘い香りが鼻をくすぐる。どうやら娘は香を帯びている様子であった。

鈴……。

鈴……。

成る程。それはとても良い音である。

不意に、そっ…と。娘の手が強者の首筋を指が触れるか触れないかの微妙な加減で撫でる。

それにぞくりと強者が身を震わせ、驚き娘を見やらば、娘の目には妖しい光が浮かんでいるのであった。

「良い音で御座いましょう?
御家来様……」

濡れた様な甘い娘の声に、強者はこくりと喉を鳴らし頷いたのである。

強者の耳元を鈴の音と、娘の指先がくすぐるのであった






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