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クレハテルツレヅレ
末姫と北の方9

燭台の蝋燭の火がゆらゆらと揺らめき、それに合わせ緋色の中に浮かぶ影も歪むのであった。

街道を逸れ、森の深くにある屋敷である。

薄暗い屋敷であるが、中々広く、全員が夜露を凌げる。今の経基達には正に地獄に仏である。
経基は屋敷の主人である美しい女に感謝の思いを告げ頭を下げたのである。

「これは勿体無う御座います。尊き皇族に連なる御方を御世話出来る事など、私共には一生に一度すら有りませぬ。
私共の方こそ、御世話させて頂き光栄に有りまする。末代までの語り種となりましょう」

女主人は平身低頭し、そう述べると顔を上げにこりと微笑んだのである。

経基達が斥候の言う屋敷に辿り着いた時。交渉は既に終わっていた。
屋敷の前には交渉に残した者と、女主人を始め屋敷の家人達が一同に並び、経基達を迎え入れてくれたのである。

家臣達には広めの部屋を、三つ程用意してくれ、経基と亜美には個室をあてがってくれたのである。

更には、熱のある亜美のため寝床まで用意してくれたのだ。感謝の言葉も無く、やはり経基の頭は自然と下がるのであった。


鈴……。


鈴の音である。
見れば、女主人の腰に小さな紫の鈴が下がっている。
それが時折。鈴…鈴…と良い音を響かせるのであった。

亜美の病状に気を利かせてか、女主人は後ほど夕餉を用意させると告げ、しずしずと部屋から出て行くのだった。

その時も、紫の鈴は綺麗な音色を響かせていたのであった。




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あきゅろす。
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