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クレハテルツレヅレ
末姫と北の方5

「亜美様、彼処に御座います!」

月の指差す方へと振り返れば、これから向かう道から騎乗した経基が伴の者数人と現れたのである。

経基は馬をおり、伴の者に指示を出すと、亜美達の方へとやって来るのであった。

「北よ。無事であったか?」
「はい……お殿様は……あっ……」

経基の袖は、ぱくりと斬られており、赤く血が滲んでいた。
亜美はそれを見付けると、己が袖を先、経基の傷へと巻き付けた。

「すまぬ。大した傷ではないのだが……」
「いけませぬ! 小さな傷とて油断なされますな?
貴方様は大事な御方。ここにいる皆の要なので御座います」

そう言う亜美の耳元へと、経基は口を近づけた。

「皆に取ってだけなのか? 亜美は…?」

そう呟く経基に、亜美は頬を赤く染め、小さな声で捲るのである。

「み、皆が見ています! 今はふざけ…あっ……」

軽い接吻である。
亜美の顔全体を真っ赤に染め上げ、殿!と一言、経基を怒鳴りつけるのであった。

その仲睦まじいやり取りに、疲れ果て、へばっていた家臣達から笑いが零れるのである。
重く暗い空気が、少し晴れたのであった。

少しして。ふっと、経基の顔に緊張感が戻る。

「其方も大分やられたな?」
「はい……皆。私と満仲を護るため、身を呈して……うっ…」

其処まで口にし、亜美の目に熱い物が溢れる。
皆、本当に良く仕えてくれた家臣達である。この命、無駄には出来ぬと、亜美は気丈に涙を拭い経基を見上げた。

「此より先を見て来たが、街道を外れておる故、道は細くなる。牛車では進めぬ。
歩けるか…?」
「勿論に御座います…」

経基の言葉に亜美は即座に頷いた。
歩くくらいどうと言う事はないと、ここで駄々をこねる様では、命を投げ出した者達に向ける顔がない。

経基はそんな亜美に頷くと、踵を返し、皆に休息の終わりを告げるのである。

経基は斥候を走らせ、前と後ろに強者を配し、真ん中に亜美達女衆を挟む形で道を進むのであった。





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あきゅろす。
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