クレハテルツレヅレ 管弦の宴19 ゆらりと……。 花田が崩れる様に倒れ行く……。 すがりつく様にしていた紅葉である。 己の身体の事で手一杯であった紅葉にはどうする事も出来ず、訳も分からぬまま花田と共に地に転がるしかなかったのである。 「ひゃひゃひゃひゃひゃっ!」 下卑た笑いが辺りに響き渡る。 「……かっ……か…あ……さま……?」 「……っ…ぅぅ…」 あまりの事に紅葉はしばしの間、茫然としていた。頬に散った温く粘る物。手に触れる温い液……花田の血である。 その血から紅葉に流れ伝わるは、幼き日の娘と夫の笑顔。そして、ただただ紅葉の身を案じる情であった。 それらが紅葉を駆け抜け、正気を取り戻させたのである。 「母様っ!?」 正気に戻った紅葉は、倒れ、呻く花田を抱き寄せ、身を案じたのである。 着物は血を吸いべとりと重くなっていた。 暗がりに視線を巡らせ、見つけたのは、ぱくりと開き、血がだらだらと流れ出る刀傷であった。 「なんと言う事を……」 「婆がでしゃばるからよー」 悪辣のその言葉に、紅葉はきっと顔を上げる。 「あなた達は人でなしです!」 紅葉の罵倒に揚がるは再度の哄笑である。 それに対し紅葉は、激しい怒りを覚えた。されど花田を抱く手に力を込める事。唇を血が滲む程噛み締める事。 ……出来るのは、そんな事くらいでしかなかったのである。 無力。 やがて、悪辣共の手が紅葉へと延ばされたのであった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |