クレハテルツレヅレ
管弦の宴13
花田としては、欲の皮を張ったと言うつもりはなかった。
ただ、伍輔の代わりに家族を守ろうと更に努力しようと思ったのである。
されど……。
蒼天を見上げ、新居の傍を流れる鴨川の水の音に耳を傾ける。
「…あ…ま…?」
なかなかに心地の良い音で趣があるなと、花田は思う。
「か…さま…っ」
「あっ……」
見上げる空を鳥が横切って行く……。
「母様ーーっ!」
唐突に肩を掴まれ、がくがくと激しく前後に揺すらされた。
「……紅葉。どうしたの?」
「どうしたのでは、ありません!
母様こそ気をしっかりと持って下さい!」
母を見やる紅葉の顔は、どうしたと言うのであろう?
酷く心配そうに涙まで浮かべ顔を歪めているのである。
鴨川の辺に直ぐに移れる場所があると聞いたのは、先日である。
まだ地理を把握しきれておらず。場所を理解していなかった。
言い訳にしかならぬが……。
ただただ勢いに任せ、先走り空回りした己を、花田は悔いる。
あの紫の鈴を下げた娘の言う事をもっと気を付けていれば……と…。
せめて、下調べをしていたなら……。
店を移して数日。
客足は皆無となっていた……。
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