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クレハテルツレヅレ
管弦の宴6

昇殿より帰りの牛車の中である。

経基は溜め息を吐く。

管弦の宴など、全く性に合わぬのである。
大体。あの横笛の甲高い音、あれが宜しくない。などと難癖をつけてはみているが、経基は昔から横笛が下手なのである。

管弦の宴と言えば、年がら年中何処かしらの公家が開いている珍しくもない行事なのだ。

数年前までなら国司として信濃を初め、幾つかの国を渡り歩いており、こんな面倒で不愉快な宴に出る必要もなかったのだが……と、経基は二度溜め息を吐く。

更に言うなれば、右大臣藤原師輔に上から目線で物を言われるのも面白くない。
確かに此方の官位は正五位。右大臣に比べれば遥か下である。
されど、もし臣籍降下など受けていなければ、すわ帝。今頃なら上皇として、何処かの院を住処に厄介な事は忘れ、己の趣向に合った宴でも開いていれたろうに。
何なら、あの左大臣と右大臣の兄弟を呼びつけてやることも出来るのだ。と、言う詮も無き事に想いを馳せる内に、住処である六宮殿へと着いたのである。

正気へと立ち返り、供人に手伝われ牛車を降りる。
そして門を潜るのである。

官位三位以上の者が住むのが一般的である寝殿造りの、巨大な屋敷である。
幼少の頃は宮として、皇族であり、今は平時唯一の将軍であり、更には国司の時の蓄えなどもある故。経基の屋敷は五位であれども、巨大なのであった。

息子達の住処である対屋殿から上がり、廊の役目を果たす屋敷と屋敷を繋ぐための屋敷の渡殿を通り、己の住処である寝殿へと向かう。

我が家の北の方殿に聞いておかねばならないのである。
紅葉とは誰だと。





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あきゅろす。
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