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クレハテルツレヅレ
管弦の宴2

「いらっしゃいませ」

にこりと品のある笑みを浮かべ、その美しい娘は花田と共に、大勢の客を相手にしていた。

やがて客足が少し引き、ふと姫様は元気にしているだろうかと、呉葉から名を紅葉と改めた娘は店先に立ちながら思う。

雪乃の乱心より一年よりも長い時が流れている。にも関わらず、紅葉が姫を想わぬ日は一日としてなかった。

会津の地より出。京を目指して旅をした。

住み馴れた地を離れる者は、税が払えず喰い詰め土地を逃げ出した者か、地方の貴族が京の貴族へ娘を女房として奉公に行かせる一行かである。

三人の姿は立派とは言えず、どうみても前者であった。

故に何処へ泊まるにも謝礼の他に、もう一握り多めに渡さなければならなかったのである。

更に盗賊、野党など珍しくない世の中である。
京で治安を守る検非遺使は地方にはなく、国司が抱える剛の者が唯一盗人に目を光らせているだけの世。
当然。護衛のない旅などは危険極まりないものである。

故に道すがら剛の者を見つけ雇い旅をしたのだ。

父と母が主人より労いを戴いたと言う話は後に紅葉は知った。
その労いの品を少しずつ切り崩し、人を雇ったのだ。

されど、護衛を雇う賃金はばかにならぬ。
故に場所に依っては護衛を雇わず、細心の注意を払い、出来るだけ多くの人が動くのを見計らい、紛れ旅を進めたのだった。

そんな時。やはり頼りになるのは父である笹丸から名を改めた伍輔であった。
伍輔は男として、父として、妻と娘を必死に守り抜いたのだ。
やっとの思いで京に辿り着き、残った路銀で四条にて泊まれる宿を見つけた。

そこで今までの疲れが、一気に出たのであろう。伍輔が病に倒れてしまったのだった。





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