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クレハテルツレヅレ
魔性1

春の強い風が梅の匂いを運ぶ。

妻の雪乃と喧嘩をしてしまったのは、つい先日の事である。

今日こそ仲直りしようと思い立つも、いざとなると踏ん切りが付かず、気付けば夜であった。

妻である雪乃は線の細いとても美しい娘であるのだが、思い悩み己を虐げると言う少々質の悪い癖を持っている。故に、その癖が病を何年も長引かせている気があった。
重ねて。昨今では雪乃の女房への縁談事が酷く気に入らぬらしく、更に思い悩んでいる様子であったのだ。

雪乃の家は地方の豪族。女人の使用人を女房と呼ぶは貴族の習わしである。されど私と婚姻を交わしたのだから彼女の家は貴族と変わらぬ。故に私は女房と呼ぶのだ。

さて、その女房の事である。

女房は雪乃と姉妹同然に過ごして来たと言う話で、雪乃からしてみれば妹の様な存在であるらしい。本来なら昔から目を掛けて来た女房であり、自分と共に歩んで来た妹の縁談事なら、喜ぶべきなのである。

ただ……。女房への縁談の申し込みの数は尋常ではなかったし、何より女房の美貌と言うか、纏う雰囲気は出逢った総ての者の心の臓にぞくりと鳥肌を起たせるものがあるのを感じさせられた。

そんな者が身近にいる。

病み、床に伏し、身を細らせる雪乃から見れば、妬むなと言うのは無理な話なのかもしれぬ。


されど……。


婿である自分を、女房へ懸想を抱えていると疑われるのは心外であった。


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