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クレハテルツレヅレ
紅い葉の様な手…11

愛娘の手は酷く冷たかった。

もう、還らぬ遠き日。
あの仲の良かった二人がこの様な運命を辿ろうとは、誰が予測出来たであろう?

つい……笹丸は溜め息を吐いてしまうのだった。

「父様……」

呉葉の呼び掛けに笹丸は振り向いた。

「私……子供の頃の事へと、思いを馳せておりました…」
「……」
「昔……御台所様が御存命の頃…。姫様もあんなに元気で……」

笹丸と同じ様に、呉葉も繋がれた手より、あの還らぬ日々へと思いを馳せたのだ。

父が心配無用と手を牽く、雪乃と婿の乱心凶行の陰には怪しの鈴があった……。


されど…。


あの賑やかで、笑顔に満ちていた日々を壊してしまったのは己に他ならぬ…と思うのだ。
ああであれば、否、もしこうしていれば、己がいなければ……。堂々巡りとは当にこの事なのであろう……。

言葉の途中で、沈黙してしまった呉葉に笹丸は言う。

「過去を断ち切るのだ。呉葉……」

それは、娘の事を想えばこその言葉であった。

「父様……それはどう言う……?」
「我等は名を変え、別の人として、これからを歩むのだ。
新しい名には、今までの幸も光も穢れもない。
全てを捨て、御主人達への奉公も、受けた恩も捨て我等は別人となるのだ」
「そんな……。父様、そんな情けを知らぬ事を……!」

それに……と笹丸は思う。
呉葉自身の悔いを断ち切るのが一番の事なのであるが、呉葉の名は知れ渡っている。
このままでは、新しい地にて暮らそうとも貴き者達からの求愛は続き、呉葉は過去に捕らわれたまま立ち直れぬであろう。そればかりか呉葉の名はお家にも届き、また姫へ心労を与える事になるかも知れぬ。

ならば、何れにしても名を変える必要があるのだ。

「良いか、呉葉。我等は名を変えるのだ」




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